( 9/11 付 )

 多様性を認め合う大会の終幕にふさわしい選曲だったと思う。事故で半身不随になった歌手の奥野敦士さんが、東京パラリンピック閉会式で歌い上げた「この素晴らしき世界」である。

 緑の木々や赤ん坊の成長など身近なことを「何と素晴らしい」とたたえる。野太いしゃがれ声とゆったりとしたメロディーが心に染みた。ところが米国ジャズ界の巨匠ルイ・アームストロングのオリジナル盤は、米大手ラジオ局の放送自粛対象になったと報じられたことがある。

 2001年9月11日の米中枢同時テロの直後だった。悲しみに暮れる当時の国民感情にそぐわなかったのかもしれない。報復に向けた戦意高揚の妨げになる。そんな政権の意向を忖度(そんたく)したとの見方もあった。

 米国は同時テロ後、アフガニスタンに派兵してイスラム主義組織タリバンを権力の座から退けた。国民のほとんどが「弔い合戦」を支持した。一般市民を無差別に殺傷するテロは到底容認できない。一方で、報復は報復を生み、人の命が奪われ続けている。

 お互いの正義がぶつかる戦争の幕引きがいかに難しいか。米軍の撤退完了を待たずに先月、タリバン政権が復権を果たしたアフガンの混乱する現実が物語る。

 「9.11」からきょうで20年。人生を肯定し、命をいとおしむ。当たり前のことを歌った優しい曲で心が通じ合う世界の実現を、諦めるわけにはいかない。