( 10/1 付 )

 熊本県水俣市。二つの川が交差して流れていた景色からついた名だという。「この美しい地名を病気の名に流用したことに市民は怒るべきである」。作家の池澤夏樹さんは書いた。原因企業の名を取る「チッソ病」がふさわしかった、と。

 編集を担った文学全集に「苦海浄土」(石牟礼道子著)を選んだ時の解説に記す。この名著とともに水俣病の悲劇を世に広めたのが米国人ユージン・スミスさんと元妻アイリーンさんによる写真集「MINAMATA」だ。

 2人は1971年9月から3年にわたって水俣で暮らし、交流した患者家族の姿をカメラに収め続ける。その写真集を原案にした米映画が先週封切られた。

 四肢が不自由な胎児性患者、世話をする家族、抗議の声を上げる住民、冷徹さの裏に葛藤をのぞかせるチッソの社長。時に実際の写真を挟み、時に脚色を交え、映画芸術の力で問題の所在を浮かび上がらせる。

 主演のハリウッドスター、ジョニー・デップさんは、没40年余りになるスミスさんが乗り移ったようだ。鋭いまなざしに、有機水銀を含む工場廃水を海に流した取り返しのつかない選択への怒りや悲しみがにじむ。

 病気の公式確認から65年。美しい地名は、「ミナマタ」として世界に広まった。今も苦しむ患者の裁判が続く。この映画を現在進行形の「私たちの物語」と見なければ、悲劇は何度でも繰り返される。