( 10/5 付 )

 「私にとって『被爆者』、あるいは『原爆による死』というものはとてもリアルなものであり、かつ、とても身近なものだったのです」。被爆地・広島選出で第100代首相に就任した岸田文雄さんの著書「核兵器のない世界へ」にある。

 親戚や縁者も多く犠牲になったという。「核全廃」という名の松明(たいまつ)を高々と掲げ、同じような思いを胸に抱く人たちの羅針盤になりたいと記す。核なき世界の実現を自らの使命と考えているのだろう。

 祖父、父とも衆院議員だった政治家3世だ。だが、順風満帆の歩みではなかった。昨年の自民党総裁選で菅義偉前首相に大差で敗北。無役になり、「終わった政治家」とささやかれた。

 今回、引き留める側近たちを振り切って早々に再出馬を表明し、菅氏の退陣で流れに乗った。ただ、党内の実力者や派閥への配慮が目に付く。党改革の旗が飾りにならないか心配だ。

 新型コロナの「第6波」への備えや経済再生、年金制度改革、外交・安全保障など課題は山積している。閣僚20人のうち13人は初入閣だが、成果をのんびり待つ時間はない。説明力や実行力が問われるはずだ。

 冒頭に紹介した著書には「理想を忘れず、それを原点として現実的な問題に取り組んでいく」とある。政策を進める上で、国民の政治不信の払拭(ふっしょく)は避けては通れない。信頼回復という名の松明も、高々とともしてもらいたい。