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 1950年代、多くの若手研究者が欧米に渡った。「博士を取っても職がない。渡りに船、素晴らしいオファーだとやってきた」。ノーベル物理学賞に決まった真鍋淑郎(しゅくろう)さんは渡米した経緯をこう語る。

 米海洋大気局に招かれ、長期的な気候予報の研究に取り掛かる。研究費は潤沢にあり、機材もそろっている。「世界で最も多くコンピューターを使った男」と呼ばれるほど熱中した。研究者として夢のような環境だったに違いない。

 取り組んだのは大気や日光、雲などのデータから気候を再現することだった。大気中の二酸化炭素の濃度が高くなれば、地球の表面温度が上昇するメカニズムを解き明かした。現在の温暖化研究に欠かせない成果である。

 研究を始めた当時は気候変動がこれほど大問題になるとは想像していなかったという。とはいえ、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が90年にまとめた温暖化に関する第1次報告書の執筆者になるなど功績は大きい。

 今年8月に出された第6次報告書は「人間が温暖化を引き起こしていることは疑う余地がない」と明言した。この受賞が、一部で疑う声もある地球温暖化論の正当性を高めるのではないか。

 真鍋さんは日本でも大洪水やがけ崩れが頻繁に起きていることを憂える。先駆的な研究の成果を生かし、手を携えて地球を守っていきたい。今からでも遅くはない。