( 10/13 付 )

 本題に入る前の「まくら」の途中、ふと動きをとめて黙り込んだ。聴衆が高座の柳家小三治さんを見つめ、じっと待っていると再び語り始め、会場の空気がほどけた。絶妙な間合いに「うまいなあ」と感じた。

 古典落語の名手で人間国宝の小三治さんが亡くなった。鹿児島にも何度も足を運んでいる。昨年10月の一門会の演目は「粗忽(そこつ)長屋」とアンコールの「小言念仏」だった。

 落語好きの方はご存じの通り「小言念仏」は仏壇へ念仏を唱えながら家族への小言を繰り出す話だ。表を通るドジョウ屋を妻に呼び止めさせ、調理法まで指示する。ひょうひょうと続くテンポのいいぼやきを堪能した。

 高校卒業後に五代目柳家小さんさんに入門。若いころ、「おまえのはなしは面白くねえな」と指摘されたという。師は稽古をつけてくれず、「弟子なんだから盗め」。そう言いながら、ほかの師匠のまねをすると「それは泥棒だからダメ」と叱られた。

 師の背中を見ながら探求を続け、たどり着いたのが何の作為も感じないのに聴いている人の頬がつい緩む、そんな笑いだ。なんとも言えないおかしみと温かさが魅力のはなし家だった。

 コロナ下での昨年の会は感染対策で定員を減らして開かれた。次は満員の会場で聴きたいと思ったが、かなわなかった。まくらの中でしみじみと、「鹿児島のそばはうまかった」と目を細めた笑顔を思い出す。