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 辞書編集者の神永曉さんは自著で美しい日本語の一つに「風の便り」を挙げている。風そのものが使者となった、出どころの分からないうわさを指す詩的な言葉だ。

 手元の辞書では「便り」自体には音信や手紙のほか、「たよること」「よい機会」といった意味も載っている。文字にしたため伝えることは、頼りになる情報ということか。新聞の読者投稿もその一つと言えよう。

 昨年3月、夫に先立たれ、さつま町に1人で暮らす太田ますえさんは73歳。グラウンドゴルフやカラオケとともに、本紙ひろば欄への投稿を楽しみにしている。題材はもっぱら野球に打ち込む孫のことだ。

 ふるさとを離れ、大分・明豊高校に進学した太田虎次朗さんが今年の春、投手としてチームを選抜準優勝に導いた。「ばあちゃんを甲子園に連れて行く」という約束を果たしてくれた喜びを一文にし投稿した。

 ひろばを読んだ近所の人たちから声を掛けられた。全国に散った、ますえさんの中学時代の同級生たちも虎次朗さんの活躍に大いに盛り上がったという。新聞を通じて絆がさらに強まったことだろう。

 21日まで新聞週間。佳作に選ばれた標語の一つに「離れても 心と心 つなぐ記事」(北海道・佐藤好恵)がある。日々のニュースに読者の投稿が彩りとなって新聞は出来上がる。いずれも「風の便り」ではない、地域をつなぐ確かな情報である。