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 好奇心旺盛な主人公の動物が周囲の人間を巻き込んだ騒動を引き起こすが、最後は丸く収まる。子ども向けの物語は、こんな展開が多い。

 絵本作家レイ夫妻原作の「おさるのジョージ」シリーズもその一つだ。ちょうど80年前の秋に米国で初版が出て大ヒットし、14カ国語以上に翻訳された。日本では「ひとまねこざる」として1954年に出版され、今もテレビアニメで人気がある。

 黄色を基調にした絵と愉快な物語は大人が読んでも明るい気分になる。穏やかな環境で想像を膨らませた作者像をイメージする。だが、実際は違う。夫妻はナチスの迫害から命からがら逃げ延びた経験を持つユダヤ人である。

 パリに住んでいた夫妻は40年、ナチスドイツ軍の侵攻直前に自転車で街を脱出した。絵本作家として開花する前に難民になったわけだ。中立国ポルトガルまでの行程はさぞかし心細かったろう。大西洋を渡ってブラジルに着き、その後米国に腰を据えた。

 夫妻の発音にはドイツ語なまりがあり、ナチスのスパイに間違われることもあったらしい。そんな時は荷物の中から膨大な数のジョージの原画を引っ張りだし、絵本作家の夢を語って疑いを解いたと伝わる。

 ジョージは絵本の中でいつも口角を上げて屈託なく笑っている。不安と恐怖の逃避行を知るからこそ、心赴くまま冒険を楽しめる自由をかみしめているのかもしれない。