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 東洋史学界の大家で中国の学者からも尊敬された宮崎市定(いちさだ)さんは、学問の派閥に属さない「一人一党」を歴史家に求めた。研究には精神の自由が不可欠と考えたからだ。

 一人一党では発言に迫力を欠くが、「即効」は学問に必要ない。100人100通りの意見の中から大勢で良いものを選ぶ。そして「長い年月をかけてそれを確かめていくのが自由社会の法則」と著書「中国史」で説く。

 中国共産党が中央委員会第6回総会で歴史決議を採択した。経済発展や国際的な地位の向上、軍事大国化を習近平国家主席の功績と位置付けた。香港の統治強化や台湾への圧力さえも賛美し、習氏への個人崇拝を醸成する意図が浮かび上がる。

 そこに史料の綿密な検証や多様な見解のすり合わせなどない。自由主義を掲げる国家体制ではないとはいえ、時の権力者が都合のいいように国民の歴史認識を統一していいのだろうか。

 歴史決議を採択させた指導者は、建国の父である毛沢東と改革・開放路線を推進した鄧小平に続いて3人目になる。最高権力者として着々と足場を固める習氏の強硬姿勢が、国内外でエスカレートしないか懸念は消えない。

 今の中国では党が決定した公式の歴史への異論や矛盾する研究発表は認められないという。一人一党とは対極の言論統制である。真の歴史家たちが口をふさがれ、息苦しさにあえいでいないか心配だ。