( 11/26 付 )

 湯船の縁にあおむけの頭を載せ、湯の中で軽くなった体をふわりふわりと漂わす。夏目漱石の「草枕」に出てくる主人公の入浴場面だ。「世の中もこんな気になれば楽なものだ」と続く。

 熊本県玉名市の温泉地に旅した思い出が下敷きになっている。描写の端々に温泉愛がにじむ。鉱泉の色が透明で入り心地よし、あふれる湯を踏む心は穏やかにうれしい-。

 鹿児島はそんな文豪もうらやむ土地だろう。本年版の総務省統計にある都道府県別の公衆浴場数(人口10万人当たり)を見ると、トップ青森は23.5軒、2位鹿児島は17.2軒。何といってもわが県の特色は「温泉銭湯」が多いことだ。

 環境省の発表データが裏付ける。昨年3月末時点の「温泉利用の公衆浴場数」によると長野、静岡に次ぐ全国3位の528軒に上る。青森はその半分にすぎない。「温泉王国かごしま」たるゆえんである。

 きょう11月26日は語呂合わせで「いい風呂の日」。公衆浴場業組合の鹿児島市支部の役員は、経営に最近の燃料高の影響は免れないが「コロナ下でも休業要請の対象に含まれなかったライフライン」との使命を持って営業を続けている、と話す。

 日暮れが早い。寒くなった。身近に温泉銭湯のある幸せが特に身に染みる。湯の中で草枕の主人公のように「生きるに苦は入(い)らぬ」とつぶやけば、胸のつかえがすっと取れる気がしないでもない。