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 奄美には祖先の霊や自然の神々と交信できるとされるユタがいる。霊力の高いユタは占いや人生相談などを引き受ける。島の人々にとっては身近な存在だ。

 病気や周囲の不幸を「神を拝め」との託宣と受け止め、儀式を経てユタとなるケースが多い。神を拝むと病や不幸はやむが、礼拝を怠ると再発すると信じられている。そうした精神性が今も根付く。

 92歳で亡くなった山下欣一さんは、奄美のユタ信仰研究の第一人者として知られた。旧名瀬市に生まれ、ちょっとした病気にかかると、近所のユタに治癒を祈ってもらう環境に育った。民間信仰を解き明かす作業は「責務のようなもの」だった。

 藩政期や明治期には迷信邪教と言われ、権力側に弾圧された経緯もある。そのため調査を始めたころ人々の口は堅かったが、教職の傍ら島々を巡って信頼関係を築き、聞き取りを重ねた。その姿勢は民俗学者の模範だろう。

 研究は70年以上に及び、ユタの実態や呪詞と口承文芸との関連など多岐にわたった。昭和50年代初め、聞き取りに赴いた研究者が、ユタから「これに全部書いてある」と教えられたのが山下さんの著作だったという逸話が残る。

 奄美の人自身が島の独自性を学ぶ「奄美学」も長年唱え実践してきた。先人が築いた誇らしい文化を知ってほしいとの願いからだ。故郷にまいた種は花を咲かせ、次の世代へ受け継がれよう。