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 サラリーマンは給料から、あらかじめ所得税を差し引かれる。いわゆる源泉徴収制度である。元国税調査官・大村大次郎さんの著書「脱税の世界史」によると、太平洋戦争のころに導入された。

 それ以前は会社が得た収入に税をかけた上、社員に支払われる給料にも課税するのは二重取りとなり非常識と考えられていた。戦費が足りず、仕方なく始めた制度が今も続いていることになる。

 収入がガラス張りの給与所得者には腹立たしい話である。国税庁が今年6月までの1年間に実施した調査で「富裕層」の申告漏れが、統計開始以降、最高額だった。有価証券などの大口所有者や海外投資に積極的な個人が対象という。

 1件当たりが4000万円近くに上る。累進課税で高所得者が重い税に苦しんでいた昭和の時代ではあるまいに、悠々と暮らせる所得がありながら、義務を果たさず私腹を肥やそうとする姿に人間の欲を見る思いがする。

 わが国の財政は、膨らみ続ける社会保障費に加え、新型コロナ対策費用もかさんでいる。税収だけでは賄えず、国債という名の借金を繰り返している。後世に回すツケは増える一方である。

 8月に亡くなった稲盛和夫さんは「利己を抑え、足るを知ることが反省ある人生だ」と説いた。そうがめつく生きなくてもいいではないかと。課税の公平性を損ねた欲深き人たちにも胸に刻んでほしい言葉である。