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 においが記憶を呼び覚ます現象を「プルースト効果」という。菓子を浸した紅茶の香りから遠い幼少期の景色がよみがえる。フランスの作家プルーストの小説に出てくる挿話に由来する。

 野球漫画「ドカベン」がきょう28日発売号で完結すると聞いて、子どもの頃に通った理髪店の記憶がよみがえった。早々に丸刈りにしてもらい、待合席に戻って読みふけった。思い出はシャンプーや整髪料の香りと共に今もある。

 1972年4月、水島新司さんが週刊少年チャンピオンに連載を始めた。ドカベンこと山田太郎を主人公に中学柔道部からプロ野球までシリーズ化されたが、人気を決定付けたのは甲子園での活躍を描いた初期の作品だろう。

 明訓高校野球部に所属する強肩強打の山田、「小さな巨人」里中は下手投げで打者を惑わす。悪球打ちの岩鬼や音楽のリズムに合わせた回転打法の殿馬。個性を織り交ぜながら心理戦を描き出す。

 かつて甲子園を沸かせた清原和博さんは「僕は4番の心得をドカベンに教わった」と語っている。ピンチに陥っても動じない気構えは多くの球児に刺激を与えたに違いない。

 100回目を迎える夏の甲子園をかけた地方大会が始まり、鹿児島は来月7日に開幕する。土と芝の匂いが立ち上るグラウンドで繰り広げられる汗まみれのプレーに、ドカベンのワンシーンを思い出すファンもいるかもしれない。