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 星新一の短編に「午後の恐竜」がある。日曜の朝、遅く起きると、世界中に恐竜の群れが現れている設定だ。幻影なのだが、地球最後の日という結末にドキリとする。

 希代のSF作家はもとより、恐竜は映画やアニメにもしばしば描かれる。その大きさゆえか、それともユニークな姿形からか。古今東西、想像力をかき立てる存在に違いない。

 薩摩川内市の甑島で草食恐竜ハドロサウルスの仲間とみられる化石が見つかった。この種の特徴は一風変わった頭部だ。シュノーケルのような細長い突起がてっぺんにあったり、アヒルのくちばしに似た平たい口をしていたりと、図鑑に出てくる面々はどこか愛らしい。

 頭の突起から音を出したり、頬を膨らませたりしてコミュニケーションをとり、群れで行動していたという。体長は10メートルを超えていたようだ。そんな巨体を揺らし、どんな会話をしていたのか。聞いてみたい気がする。

 6600万年前、隕石(いんせき)の衝突で恐竜は地球上から姿を消したといわれる。それよりやや古い時期に当たる地層から化石は見つかった。今回の発見で恐竜が絶滅する前のナゾにどこまで迫ることができるか楽しみである。

 甑島は化石の宝庫だ。貝やアンモナイトといった海洋生物も数多く出土している。波に洗われた巨岩の間から恐竜がひょっこり顔を出しはしないか。映画のような光景を空想すると胸が弾む。