[憲法記念日] 関心が薄れていないか
( 5/3 付 )

 1960(昭和35)年秋、上皇后美智子さまは日米修好100年の記念行事に上皇さまと出席するため、まだ7カ月だった天皇陛下を残して渡米された。
 この時、職員に育児の申し送りをしたメモ「ナルちゃん憲法」が後に評判になった。皇室ジャーナリストの松崎敏彌さんは陛下の名、徳仁(なるひと)の愛称と憲法を組み合わせたほほ笑ましい題名は「美智子さまがおつけになった」と書き残している。
 その陛下がおとといの即位後朝見の儀で「憲法にのっとり、日本国および日本国民統合の象徴としての責務を果たす」と誓われた。30年前の上皇さまは「皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務をはたす」だった。「のっとり」と「守り」の違いに2人の憲法観がにじむようで興味深い。
 きょうは施行から72年の憲法記念日。改憲に向けた国民投票の手続きを整える作業が続く中、象徴天皇制のよりどころとなる憲法はどうなるのか。主権者である私たち国民の憲法に対する関心が薄れてはいないか。改めて考える機会としたい。

■まずCM規制から
 憲法改正の論議がいよいよ本格化する。そう強く感じたのは安倍晋三首相が、東京五輪・パラリンピックを念頭に「新しく生まれ変わった日本がしっかりと動き出す2020年を、新しい憲法が施行される年としたい」と発言した2年前だ。
 これを受け、自民党は(1)第9条への自衛隊明記(2)緊急事態条項の新設(3)参院選「合区」解消(4)教育充実-の「改憲4項目」条文案をまとめた。衆参両院の憲法審査会でこれをたたき台に議論を深めたいとしてきた。
 しかしながら、統一地方選、参院選を控えた与野党それぞれの思惑もあったせいか、論議は遅れ、先月末にやっと動きがあった。衆院憲法審査会が久々に開かれ、国民投票法改正案に絡むCM規制について、近く日本民間放送連盟(民放連)から意見聴取することを決めた。
 資金力の差が投票結果を左右するとの懸念は強い。改憲を主張する自民党の資金が豊富なことは明らかだ。国民民主党などは法的規制を主張している。昨年の幹事懇談会では、民放連側がCMの賛否の量を自主規制できないと説明した。与党は今度の聴取後すぐに改正案の質疑と採決を行いたい意向だが、審議を尽くしたとは言えまい。
 もともと、公選法の規定にそろえる国民投票法改正案の内容自体に、野党の異論は少ない。今後はCMはもちろん、インターネットや会員制交流サイト(SNS)も含めた広報活動についての細部の詰めが論議の中心となるだろう。
 憲法改正の是非とは別に、ここは大切な問題だ。国民投票によるブレグジット(EU離脱)に揺れる英国も、有料CMの全面禁止などを決めていた。
 改憲の重みを考えると、首相の示したスケジュールにとらわれる必要はない。公平性を重視した仕組みづくりこそ模索すべきだろう。与野党ともに、論議から逃げない積極的な姿勢で臨んでほしい。
 憲法改正については、もちろんさまざまな意見がある。共同通信社の直近の全国世論調査では「必要」「どちらかといえば必要」63%、対して南日本新聞社が先月実施した県内の世論調査では必要性が「ある」「どちらかといえばある」は49.3%だった。地域だけでなく年代によってもばらつきがあろう。

■理念改めて学ぼう
 解釈改憲で問題をとりあえず解決、または先送りするやり方には、はっきりと限界が見えている。15年に成立した安全保障関連法では、これまでの解釈を変更し、集団的自衛権の行使まで認めた。憲法をないがしろにする手法と言ってもいい。
 なのに、なぜ解釈改憲への批判はあっても、熟議の上での国民投票という、国民が本来持つ権利を行使しようとの声は、政治家や学者からあまり聞こえてこなかったのか。法哲学者の井上達夫さんは「憲法の涙」(毎日新聞出版)で、改憲派と護憲派をともに厳しく指弾する。
 「それは、その方が都合がいいから。右にとっても、左にとっても。少なくとも、改憲プロセスで『負けない』ですむ。どちらも、確実に勝てないなら、今のままがいい、と」
 現行憲法の中核的な理念のひとつに第13条「すべて国民は、個人として尊重される」が挙げられる。人々の考え方が多様になった現代では、言葉の輝きは一層増す。私たちはこの大切さをかみしめる一方で、国民として憲法についてもしっかり学んでいきたい。
 安全保障から技術革新まで、世界に急激な変化が起きている。夏の参院選では、憲法改正は大きな争点のひとつになる。改憲の行方を左右しかねない国民投票の在り方について与野党はさらに論議を深め、国民の関心を高めていくべきである。