[認知症対策] 予防に数値目標必要か
( 5/19 付 )

 政府は、認知症対策の強化に向けて2025年までに全省庁で取り組む大綱の素案を有識者会議に示した。
 従来方針としてきた認知症の人が暮らしやすい社会を目指す「共生」に加え、新たに「予防」を重要な柱とし認知症の人数を抑制する数値目標を導入したのが特徴だ。6月に決定する。
 認知症の高齢者は15年時点の約520万人から、25年には約700万人に膨れ上がると推計される。65歳以上の5人に1人に当たり、早急な対策の強化が必要なのは分かる。
 ただ、認知症の予防法が確立されていない中、数値目標の設定は拙速ではないか。予防の必要性を強調しすぎると「認知症になるのは努力を怠ったからだ」といった誤った認識を生むことが懸念される。
 大綱の前身となる15年策定の国家戦略(新オレンジプラン)は、「住み慣れた地域で自分らしく暮らせる社会の実現」を掲げた。認知症になったからといって何もできなくなるわけではなく、症状に合わせて仕事や地域活動に参加することは可能だからだ。
 とはいえ、認知症の人が日常生活に支障を来す場面は多く残されており、当事者や家族らが求める共生社会の実現は道半ばと言わざるを得ない。
 こうした問題点は当事者の目を通してこそ明らかになるものだ。今年3月、認知症の当事者団体が根本匠厚生労働相と意見交換したが、大綱策定に向けて議論する政府の有識者会議は研究者や企業経営者で構成され、認知症の当事者は入っていない。
 これでは対策の実効性は疑わしい。政府は認知症の人や家族の声を丁寧に聞き、大綱に生かしてもらいたい。
 素案は「70代の発症を10年間で1歳遅らせる」と数値目標を明記した。実現すれば、70代の認知症の人が約1割減少することになる。予防によって認知症の発症を遅らせ、社会保障費を抑制する狙いがある。
 予防の具体策として、公民館など身近な場での体操や教育講座などを挙げている。運動や社会参加が認知症予防につながる可能性があると期待するからだが、科学的な根拠が不十分なため、研究も同時に進めるとしている。
 あいまいな根拠を基にした数値目標にどれほどの意味があるだろう。成果にこだわるあまり数字が独り歩きし、認知症の人や家族が肩身の狭い思いをするようになっては元も子もない。
 根本的な原因や治療法が分からない以上、加齢による認知症は誰にでも起こり得る。まずは「認知症になっても暮らしやすい共生社会」の実現へ有効な施策を打ち出すべきだろう。
 当事者の生活の障壁を知り、一つ一つ取り除いていく地道な取り組みを重ねていくことが、超高齢化社会に向けた何よりの備えとなるに違いない。