[日韓協定破棄] 安全保障に深刻な影響
( 8/23 付 )

 韓国政府は国家安全保障会議(NSC)を開き、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めた。
 軍事上の機密情報を提供し合う重要かつ日米韓の安全保障における象徴的な協定の瓦解(がかい)を意味する。北朝鮮はこのところ、短距離弾道ミサイルなどの発射を繰り返している。東アジアの安保情勢に深刻な影響を及ぼしかねない。
 日韓の対立は同盟国の米国からも解決の方法を探るよう求める声が出ていた。しかし、韓国側は日本の対韓輸出管理強化を元徴用工問題の報復と捉えた。
 日韓関係の悪化は通商分野から安保分野にまで拡大した。関係改善は一層遠のいたといえる。韓国政府にはいま一度、対話という外交の基本に立ち返り、事態を冷静に見極め、再考するよう求めたい。

■韓国世論が背景に
 GSOMIAの秘密保全の対象は軍事技術だけでなく、戦術データや暗号情報、高度のシステム統合技術など広範囲に及んでいる。
 日本は朴槿恵(パク・クネ)前政権時代の2016年11月に締結した後、1年ごとに更新してきた。日韓協定の効力は1年で、終了する場合には、90日前にどちらかが書面で意思を伝えなければならないと定めている。
 あすが通告の期限となっていたため、韓国側は輸出管理強化問題で日本側の譲歩を引き出そうと、これまでの外相会談の席などでも「検討中」とぎりぎりまで態度を明らかにしていなかった。
 韓国政府は破棄の理由について、日本の輸出管理強化が「両国間の安保協力環境に重大な変化をもたらした」と指摘、協定の継続が「韓国の国益にそぐわない」としている。だが、その判断は早計ではないか。米韓関係にも影響を与えよう。
 破棄によって、日韓間の情報交換には困難が生じざるを得ないが、日韓双方が情報の一体化を進めている米国を介した情報共有は進められる。
 とはいえ、米国が北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射を事実上容認する中、日本はミサイル防衛体制を再検討する必要に迫られる。影響は小さくない。
 日本の輸出管理強化に韓国社会が反発する中、先ごろ発表された世論調査で、回答者の半数近くが協定破棄に賛成したのも大きかった。
 協定反対派が支持層に数多く含まれる文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとっては、破棄を対日カードに使う環境が出来上がっていたといえる。
 日韓の関係悪化は昨年10月以降、日本が「1965年の日韓請求権協定で解決済み」としてきた元徴用工問題で日本企業に賠償を命じる韓国最高裁の判決が相次いだことから始まった。
 「国際法違反」として仲裁委員会の開催を求めた日本に対して韓国側は回答しないまま、慰安婦問題を巡る日韓合意に基づいた財団を解散した。自衛隊機への火器管制レーダー照射なども続いた。
 こうした中、日本は7月から韓国の輸出管理に対する「信頼失墜」を理由に、貿易管理手続きを厳格化する措置を相次いで実施した。
 韓国は報復として同様の措置を取ったほか、日本製品を対象にした不買運動や日本への旅行自粛に発展した。東京五輪ボイコット論が浮上したほか、原発事故に絡む放射性物質の検査強化も打ち出した。

■長期化で国民疲弊
 対立は日韓を結ぶ航空便の減便を招き、とりわけ訪日韓国人旅行客の多い九州や北海道、東北を中心に観光業への打撃が大きいほか、民間交流にも波及しつつある。
 訪日外国人旅行客の中で近年、全体の2割と中国人に次ぐ割合を占めてきた韓国人客は7月、前年同月比7.6%減の56万1700人となった。3社で週10便が運航していた鹿児島-ソウル線も一時運休や減便の決定が続く。
 文政権は対北朝鮮政策を進める上でトランプ米政権との協調を重視しており、協定破棄に踏み切っても米国との協力関係にひびは入らないと冷徹な判断をした可能性がある。
 韓国軍の元高官は破棄決定が「北朝鮮を利するだけだ」と批判する。日本側からも同様に「非常識だ」との声が相次いでいる。
 東アジアを巡っては、中国とロシアの戦闘機が合同で日本海や東シナ海の公海上空を飛行するなど、予断を許さない事態が続いている。
 当面の間、世論に後押しされた文氏も、国民に「安易な譲歩」と受け止められる決着はできないだろう。
 だが、長期的な対立の先には経済を含めて日韓それぞれの国民が消耗していく姿しかみえない。これ以上、混迷を深めないためには、安倍晋三首相と文氏の首脳同士で、事態の打開を図るべきだ。