[NHK会長謝罪] 公共放送の独立 侵すな
( 10/9 付 )

 公共放送の独立性を揺るがす事態と言わざるを得ない。
 かんぽ生命保険の不正問題を追及した番組を巡り、日本郵政グループの抗議を受けたNHK経営委員会が、NHKの上田良一会長に厳重注意した。上田氏は郵政側に事実上謝罪し、圧力に屈した格好だ。
 番組は昨年4月放送の「クローズアップ現代+(プラス)」。郵便局員らの取材を基に、顧客に不利益となる保険契約をさせている実態を告発した。取材班は、さらに続編制作のためにインターネット動画で情報を募集した。
 これに対し、日本郵政は不正の内部調査に乗り出すのでなく、番組放送後の同7月、NHKの上田氏宛てに抗議する。「組織ぐるみでやっている印象を与える」との理由である。
 日本郵政の長門正貢社長は「(ネット動画が)偏向しているのではないか」と述べており、続編を含む報道に圧力をかける意図が透けてみえる。
 やりとりの中でNHKの番組担当者は「会長は番組制作に関与しない」と説明した。郵政は「最終責任者は会長だ」と追及し、経営委にガバナンス(組織統治)強化を要請する。個々の番組の制作が現場に任されている現状を考えると、揚げ足取りでしかない。
 ところが、NHK経営委の石原進委員長(JR九州相談役)は「番組担当者が間違った説明をした」として上田氏に口頭で厳重注意し、上田氏は11月、「説明が不十分で、誠に遺憾」との文書を郵政側に出した。厳重注意は委員会の議決を経ていなかった。
 経営委員は衆参両院の同意を得て首相から任命され、個別番組に介入することは放送法で禁じられている。今回はガバナンスを名目としているものの、実態は個別番組に関するもので、同法に抵触する疑いが強い。
 かんぽ不正が広がりを見せる中で、長門氏はこの時の対応を「深く反省する」と謝罪した。一方で日本郵政上級副社長の鈴木康雄・元総務事務次官はなお、NHKの取材方法を「暴力団と一緒」と非難を続けている。
 過剰とも思えるNHKの反応の背景には、放送免許を握る総務省の存在が大きい。日本郵政は鈴木氏はじめ、同省出身者が少なくない。強引な抗議を石原氏らが追認、上田氏も抗しきれなかった形である。
 この問題については国会で野党が追及を始めたが、政府もNHKもしっかりとした検証が欠かせない。今後に向け、現場が萎縮することなく、自由な番組づくりのできる環境を改めて整えなければならない。
 上田氏は「自主自律や番組編集の自由が損なわれた事実はない」とする。だが、受信料で成り立つNHKへの国民の信頼は傷ついた。経営委の石原氏らは責任の重さを自覚すべきである。