[パワハラ指針案] 全面的に見直すべきだ
( 11/8 付 )

 厚生労働省が労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会に示したパワーハラスメントに関する指針素案に批判が噴出している。素案はパワハラに「該当しない」例を列挙したが、労働者側が「内容が不明確でパワハラを助長しかねない」と反発しているのだ。
 厚労省は年内の指針策定を目指している。弱い立場の労働者を守る内容でなければならないが、経営者側の恣意(しい)的な運用への懸念が拭えない以上、指針案を全面的に見直す必要がある。
 企業にパワハラ防止対策を義務付けた女性活躍・ハラスメント規制法が5月に成立した。大企業は来年6月から、中小企業は2022年4月から相談窓口の整備などが義務付けられる。
 国はパワハラを「優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により就業環境を害する」と定義づけ、業務上の指導との「線引き」を示す指針を検討してきた。
 指針素案はパワハラを(1)暴行・傷害の身体的な攻撃(2)脅迫や侮辱など精神的な攻撃(3)隔離や無視など人間関係からの切り離し(4)明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制といった過大な要求(5)合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる過小な要求(6)私的なことに過度に立ち入る個の侵害-の六つに分類した。
 その上で、分類ごとに該当例と該当しない例を公表した。
 たとえば、性的指向など人格を否定する発言や、必要以上に長時間にわたって厳しい叱責(しっせき)を繰り返すのは精神的な攻撃に当たる。一方、遅刻や服装の乱れなど社会的マナーを欠く言動・行動を再三注意しても改善されない労働者に強く注意するのは該当しない。
 また、管理職を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせるのは過小な要求になるが、経営上の理由で、一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせることはこれに当たらない。
 労働者側は「社会的マナー」は範囲が不明確で幅広く解釈される危険性があると批判する。また、「経営上の理由」「一時的」も違法な降格人事の際の弁解に使われていると指摘する。
 「必要以上に」「強く注意」といった表現もあいまいだ。有効な線引きとは言えまい。素案に大筋賛成した経営者側も「いたずらに例示を増やさず、パンフレットなどで丁寧に周知していくことが必要」と主張する。
 パワハラは職場だけでなく、スポーツ界や芸能界など、さまざまな組織の内部で起きている。その結果、休職や退職を余儀なくされたり、自殺に追い込まれたりした例は尽きない。
 素案の抽象的な記述が、労働者の救済を阻害することになっては本末転倒である。パワハラをなくすには何が必要か。実効性ある防止策を早急に打ち出さなければならない。