[検察官定年延長] 広がる反対 受け止めよ
( 5/17 付 )

 政府の判断で検察幹部の定年延長を可能とする検察庁法改正案の国会審議が、新たな局面を迎えている。
 政府与党が予定していた先週中の衆院内閣委員会での採決はできず、20日以降に先送りされた。法曹関係者の反対も強く、松尾邦弘元検事総長ら検察OBは、改正案が「検察の力をそぐことを意図している」とする森雅子法相宛ての異例の意見書を出した。
 背景には1月末、従来の法解釈を唐突に変更し、定年直前だった東京高検の黒川弘務検事長の続投を閣議決定した安倍政権への不信の高まりがある。
 新型コロナウイルス対策に紛れさせるように成立を急ぐ対応に、各方面からの批判は収まる兆しを見せない。政府は黒川氏の人事を白紙に戻し、「束ね法案」として一体で審議されている国家公務員法改正案と切り離した上で、議論し直すべきである。
 検察官の定年を現在の63歳から65歳に引き上げ、63歳を迎えた幹部はポストを退く「役職定年制」を導入する検察庁法改正案は、内閣が認めれば役職の延長もできるという特例規定を盛り込んだ。
 先週の衆院内閣委で野党側は特例の要件が不明確だと反発、政府側は十分な答弁ができず紛糾した。野党の再三の要求に応じて出席した森法相も「現時点で具体的に全て示すのは困難だ」と明示できなかった。
 野党側が反発するのは、黒川氏の定年延長との関連性を疑うからだ。法務省などによると、昨年秋の段階で改正案には役職の定年延長の部分はなかったものの、臨時国会への提出が見送られた後で見直したという。
 検察は行政機構の一部だが、強力な権限を持ち、時には政権の疑惑にメスを入れる。だからこそ高い独立性と中立性が要る。特別法の検察庁法が設けられているのもそのためである。
 今回のような特例規定を設ければ、時の政権が人事で検察に介入できる恣意(しい)的な運用の恐れがあることは、日弁連はじめ多くの法曹関係者、識者が指摘している。
 黒川氏の定年延長に際して、政府は立法府の手続きを踏まないばかりか文書にも残さず、口頭で内閣法制局や人事院の決裁を得たとする。およそ「法の支配」と呼べないやり方は批判されて当然だろう。
 安倍晋三首相は衆院本会議や会見の場で改正案について「恣意的な人事が行われることはない」と繰り返す。それでも国民の納得が得られないのは、全てここから始まっている。
 検察が厳正中立であることは国民の信頼の源泉に違いない。インターネットなどを通して関心が広がったのも、それが損なわれることを懸念するからではないか。「法治国家」の存在意義が問われている。