[強制不妊訴訟] 被害者の尊厳どう回復
( 7/1 付 )

 旧優生保護法下の1957年ごろ、不妊手術を強制されたとして、東京都の男性が国に3000万円の賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は国側の責任を認めず請求を棄却した。
 今回の裁判は手術を受けた男女24人が全国8地裁に起こしたうちの一つで判決は2件目。昨年5月の仙台地裁判決と同様、賠償を請求できる権利は既に消滅していると判断した。被害者救済は再び司法の高い壁に阻まれた。
 民法は「損害発生から20年が経過すると賠償請求権は消滅する」と規定する。手術から既に約60年たったとはいえ、国は被害者救済を長年放置してきた。旧法によって踏みにじられた原告らの尊厳をどう回復していくのか、解決策を早急に講じるべきである。
 旧優生保護法は「不良な子孫の出生防止」を目的として48年に制定され、知的障害や遺伝性疾患などを理由に不妊手術を認めた。原告の男性も説明がないまま、手術を受けた1人だ。
 裁判では「近年まで手術内容や被害実態を知る余地もなかった」として請求権は消滅していないと主張した。提訴が遅れたのは、プライバシーに深く関わる問題だけに被害者らが声を上げにくい事情もあったろう。
 仙台地裁は、旧法は幸福追求権を定めた憲法13条に違反すると断じた。だが、東京地裁は「憲法で保護された、子を持つかどうか決める自由を侵害した」と述べたものの違憲性には言及しなかった。後退した感は否めない。
 不妊手術強制を巡っては昨年4月、一時金320万円を一律支給する救済法が成立、施行された。「反省し、心からおわびする」との文言や、旧法の制定過程や被害状況の調査を実施することなどが盛り込まれた。
 衆参両院の事務局は6月、調査を始めた。優生思想が広がった当時の社会的背景やどのように強制不妊の政策が進められ、国や自治体がどういう役割を果たしたのかも調べる。
 被害回復の立法措置を怠ってきたのは国会の責任である。不幸な歴史を繰り返さないために被害者らへの聞き取りなど徹底的な調査を求めたい。
 医学系の学会でつくる日本医学会連合の検討会は先日、旧法を検証した報告書を公表。医学・医療関係者が被害救済に直ちに行動を起こさなかったことについて「深い反省と被害者らへの心からのおわび」を表明した。
 注目されるのは、出生前診断やゲノム編集など遺伝子治療の分野で非倫理的な方向へ進まないために多方面からの検討が必要と指摘した点である。倫理分野の学会横断的組織の立ち上げにも前向きな姿勢を示している。
 国会や医学界にはこうした取り組みを積極的に進めてもらいたい。その成果を広く国民で共有してこそ、差別のない社会の実現に寄与できるだろう。