[ALS嘱託殺人] 経緯や背景 徹底検証を
( 7/26 付 )

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者の依頼を受けて、薬物を投与し殺害したとして、嘱託殺人の疑いで医師2人が逮捕された。
 女性は会員制交流サイト(SNS)を通じて「安楽死させてほしい」との趣旨の依頼をしていたとみられ、医師2人は昨年11月30日、京都市内の女性の自宅マンションで薬物を投与、急性薬物中毒で死亡させた疑いがある。
 警察の調べでは、医師の口座には女性から現金が振り込まれており、金銭目的で請け負った可能性もある。事実とすれば極めて悪質だ。終末期医療の在り方を含め、事件の経緯や背景を徹底的に検証すべきである。
 ALSは全身の筋肉が徐々に萎縮し体が動かせなくなる難病だ。女性は1人暮らしで、胃に栄養をチューブで入れる「胃ろう」を造設、24時間態勢で介護を受けていたという。
 女性はブログで「こんな姿で生きたくないよ」とつづり、生死は自分で決めるとの意思を示していた。たとえ患者の意向をくんだとしても、主治医でもない医師がインターネットを介して依頼を受け、実行するのは論外だ。
 そもそも、薬物投与などで患者を積極的に死に導く安楽死は、日本の法律では認められていない。1991年の「東海大安楽死事件」では医師が患者を死なせて殺人罪で有罪になった。
 横浜地裁の判決は、医師による安楽死が許容される要件として(1)耐え難い肉体的苦痛がある(2)死期が迫っている(3)苦痛緩和の方法を尽くし、他に手段がない(4)本人の意思表示がある-の4項目を示した。
 だが、その後も4項目を満たしたとして公的に安楽死が認められたケースはない。また、人工呼吸器など延命治療を差し控えたり、中止したりする「尊厳死」を巡っても議論は進んでいない。「命の切り捨てにつながる」との懸念が根強いためだ。
 安易な議論は慎むべきだが、先送りしたままでいいのか。高齢化社会の進展や医療の発展に伴い、「本人や家族が納得できる最期を迎えたい」という自己決定権への意識が高まっている。欧米では安楽死を合法化する動きが広まっている。
 厚生労働省は国民の意識の変化を踏まえ、2018年に終末期医療のガイドラインを改定した。「本人の意思に加え、医療・ケアチームとの話し合いが必要」とし患者と家族、医師や介護職らが事前に対話を重ねる「人生会議」の普及を呼び掛けている。
 ALSの当事者で、れいわ新選組の舩後靖彦参院議員の「『死ぬ権利』よりも『生きる権利』を守る社会にしていくことが何よりも大切だ」との言葉は重い。さまざまな選択肢の中で終末期をどう過ごすのか。まずは一人一人が真剣に考えたい。