[菅内閣発足] 地方の未来像どう描く
( 9/17 付 )

 自民党の菅義偉総裁がきのうの衆参両院本会議で第99代首相に選出された。直ちに組閣を終え、公明党との連立による菅内閣が発足した。
 新型コロナウイルス禍の収束が見通せず、日本は重大な変革期にある。安倍晋三前首相の辞任表明から約3週間、政治の空白を極力避けなければならない状況での船出である。菅首相には国民生活を最優先に政策を着実に進めてほしい。
 安倍政権の「継承」を前面に掲げる。とりわけ、地方創生に関しては秋田から上京した経歴もあって「私が一番よく知っているという思いがある」と地方重視の姿勢が鮮明だ。
 ただ、安倍政権が2014年から看板政策として掲げた地方創生は、地方の人口減少に歯止めがかからず、かえって東京一極集中が加速するなど成果は乏しい。政権の中枢にいた菅首相も責任の一端を免れまい。
 継承するなら総括が欠かせない。「たたき上げ政治家」として、地方の未来像をどう描くのか展望を示してもらいたい。

■「自助」に頼るのか
 菅首相は自身の実績の一つとして「ふるさと納税制度」を挙げる。第1次安倍政権で総務相だった07年に打ち出し、第2次政権で官房長官に就いてからも制度の拡充を主導。15年に寄付控除の倍増や手続きの簡素化を進め、利用者が急増した。
 しかし、高額な返礼品による自治体間の競争が過熱し、国は返礼品の規制強化などの対応に追われる。制度から除外した大阪府泉佐野市と法廷闘争になり、最高裁で国が敗訴するという汚点も残した。
 自治体間の競争を促し、地域活性化を図る制度の意義は理解できる。だが、意に沿わない自治体を強権的に排除したともいえる国の姿勢は、地方分権の原則に明らかに反する。国と地方が対等な関係を築かなければ、地方の未来は危うい。
 「自助・共助・公助」を基本理念に掲げる。しかし、個々の努力の重要さを強調するあまり、財政的にも立場の弱い自治体の切り捨てにつながらないか。地方を誰よりも知っていると自負するのであれば、競争一辺倒ではない活性化策を打ち出すべきだろう。
 経済政策も継承する考えを示している。アベノミクスは大企業の収益改善や株価上昇、失業率の低下といった成果があったが、成長の果実が地方や中小企業に行き届かないままだ。さらにコロナ禍でこうした成果も吹き飛んだ。ここは政策の練り直しが求められる。
 菅首相は「コロナ収束と経済の立て直し」が重要だと述べ、観光支援事業「Go To トラベル」の効果を強調する。
 まずは新型コロナ対策に全力で当たることが重要だ。ワクチン開発など抜本的な封じ込めに時間がかかるとすれば、検査・医療体制をさらに充実させる必要がある。併せて、感染状況を見ながら経済を回す難しいかじ取りも欠かせない。
 注目したいのは、政府のデジタル化を一元的に進める「デジタル庁」の新設構想だ。コロナ禍で韓国や台湾がITを駆使して迅速に対応したのと比べ、給付金支給をめぐる混乱など、日本の遅れが浮き彫りになった。新たに担当相を置き、法改正に向けた準備を進めるという。具体化を急いでほしい。

■説明尽くす姿勢を
 7年8カ月余も官房長官を務め実務能力には定評のある菅首相だが、論戦力に不安も指摘される。自民党総裁選で、将来的に「消費税は引き上げざるを得ない」と発言し、釈明に追われた。金融政策をめぐっても直前の発言者と「一緒だ」の一言で済ませるなど、「言葉足らず」の場面も目に付いた。
 官房長官として桜を見る会などについて追及され、「その指摘は全く当たらない」など紋切り型の答弁も多かった。今後は首相として前面に立つ。国民に向けて丁寧に説明する姿勢を示してほしい。
 新内閣の顔ぶれを見ると、政権の安定と派閥の力学を念頭に置いた再任や横滑り、再入閣の閣僚が目立つ。「経験重視」の手堅い配置という見方もできるが、各派閥の入閣待機組の起用と合わせて考えれば、党内での権力基盤固めに腐心した陣容ではないか。
 しかし、失点回避を図る「守り」の姿勢だけでは克服困難な課題を菅内閣は背負っている。早々に「国民のために働く内閣」の真価が問われよう。
 内閣の番頭役の官房長官には、加藤勝信氏が前政権の厚生労働大臣から横滑りした。前任の菅首相と同じく、拉致問題担当相も兼務する。
 安倍政権が「最重要課題」と位置付けた拉致問題は、いまだに解決の糸口も見いだせない。被害者家族は高齢化し、時間の余裕はない。菅内閣でも引き続き最重要課題として突破口を模索してほしい。