[処理水海洋放出] 実効性ある風評対策を
( 4/11 付 )

 東京電力福島第1原発で汚染水を浄化した後の処理水の処分について、政府は海洋放出の方針を固めた。13日にも関係閣僚会議を開き正式決定する。
 処理水の保管タンクは第1原発の敷地を埋め、廃炉作業用地を圧迫しかねない状況だ。処分が始まれば、この難題は解消に向かうが、原発事故との二重の風評被害が出るとして地元の懸念は大きい。
 なぜ今決定するのか、影響を受ける人々への対応は十分か。政府と東電には、こうした疑問に答える丁寧な説明と実効性ある風評対策が求められる。
 第1原発では溶け落ちた核燃料を冷やす注水や流入する地下水などで汚染水が大量に発生。浄化後も放射性物質トリチウムなどが残る処理水が増え続けている。東電は来年秋以降にタンク容量が満杯になると試算する。
 トリチウムは人体への影響は比較的小さいとされ、国の基準値以下の濃度で海に放出することは国内外の原発で行われている。政府小委員会は昨年2月、海や大気への放出を現実的な選択肢とし、うち放射線監視などの技術面で海洋放出がより確実と提言した。
 国や東電は海洋放出の場合、トリチウムの濃度を基準値の40分の1以下にする案を示す。開始には2年程度の準備期間を見込んでいる。
 政府は風評への懸念から反対する漁業者らに配慮し、昨年中にも予定されていた方針決定を先送りしていた。だがこの間、関係者に理解を得る努力を重ねてきたとは言い難い。
 福島県沖での漁業は復興の途上にあり、昨年の漁獲量は事故前の2010年の約17%にとどまる。海域などを絞った試験操業を先月に終え、本格操業に向けた移行期間に入ったばかりだ。
 菅義偉首相との会談で全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は海洋放出への反対を改めて表明したが、これを受け流すような政府の姿勢は独善的に映る。漁業者らが憤るのも当然だろう。
 福島県内の原発立地自治体には「陸上保管の継続は復興の妨げになる」という声もある。ただ今年1~2月に南日本新聞社加盟の日本世論調査会が実施した全国郵送世論調査で、処理水は「十分な風評被害対策が示されるまで放出しない」とした回答が4割に上った。処分方法の検討と並行し、農業や観光業なども含む風評対策が急がれる。
 東電は第1原発で故障した地震計を放置していたほか、新潟県の柏崎刈羽原発の核テロ対策機器の不備を巡って原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受ける見通しだ。こうした無責任な体質が露見する中、説明を額面通りに受け取れず、安全性に疑念を抱く人も少なくないはずだ。
 政府と東電は、国民と真摯(しんし)に向き合い理解を求める責務があることを忘れてはならない。