[東京五輪] 国民の不安解消が前提
( 5/14 付 )

 東京五輪・パラリンピックの開幕まで2カ月余りとなった。1年延期され、アスリートの活躍する姿を待望してきた国民は少なくないだろう。
 だが、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が6都府県に発令されている。新規感染者が7000人を上回り、重症者が連日のように過去最多を更新している現実は重い。
 感染対策は大丈夫なのか。国民の懸念をよそに、菅義偉首相は「安心、安全な大会の実現に全力を尽くす」と繰り返すばかりだ。具体的な対策とともに、開催の可否についての判断基準を明確にすべきである。
 共同通信社が4月10~12日に実施した全国世論調査では「中止」「再延期」を求める人が7割を超えた。その後、感染者が急増したことを考えれば、今夏の開催に否定的な意見はさらに多くなっているかもしれない。
 国立感染症研究所は、ほぼ全国的に90%以上が感染力の強い変異株に置き換わったとの分析結果を明らかにした。重症化するリスクは従来株に比べ、1.4倍高い可能性があるという。
 ワクチン接種は75歳以上の予約受け付けが始まったばかりで五輪期間中は接種の真っただ中である。全国民が終える時期は見通せない。
 選手とチーム役員ら約3万人が参加する東京大会が感染拡大の引き金にならないか。医療体制の維持が最大のハードルとなるのは間違いない。
 組織委員会は大会の医療従事者を1日当たり最大で医師約300人、看護師約400人と想定、延べ1万人の確保を計画している。しかし、既に医療提供体制が危機的な地域もある。医療スタッフを五輪に動員すれば、コロナ感染症だけでなく、通常の医療にもしわ寄せがいくのは避けられまい。
 聖火リレーは九州から本州に引き継がれた。本来なら大いに盛り上がるはずだったイベントは、感染防止のため公道での実施を見送るなど規模を大幅に縮小する自治体が相次いでいる。
 海外選手らと交流するホストタウン事業も、既に30を超える自治体が事前合宿や交流事業での選手受け入れを取りやめた。組織委は海外の観客受け入れも断念しており、五輪を通じて国際交流を促進するという意義は失われてしまった。
 国際オリンピック委員会(IOC)理事会は東京五輪開催を全面的に支持する方針を確認した。だが、日本政府も追随して前のめりの姿勢を続けると国民の支持は得られないだろう。
 政府の感染症対策分科会の尾身茂会長は先月末、開催について「感染のレベルや医療の逼迫(ひっぱく)状況を踏まえて議論をしっかりやるべき時期に来ている」と述べた。政府は開かれた議論を通して、国民が納得できる結論を導いていかなければならない。