[特定妊婦] 全体像の把握が急務だ
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 妊娠中から支援を必要とする特定妊婦の制度は、まだ十分に活用されているとは言えないのではないか。
 特定妊婦はこの10年で7倍を超えている。だが、定義があいまいで全体像を把握できていないのが実情だ。
 妊婦を孤立から救い、生まれる命を守るには、各人の背景にある困難な状況を把握する仕組みづくりが急務だ。
 虐待事例を分析する厚生労働省専門委員会による直近の報告では、死亡例の4割は0歳児で、出産後24時間未満や1カ月未満も一定割合を占める。
 母親が孤立状態で出産し、赤ちゃんの遺棄や虐待死といった深刻な事案を予防するには、妊娠期からの継続的な支援が不可欠である。
 そのため、特定妊婦は2009年施行の改正児童福祉法で明記された。若年や望まない妊娠の他、知的・精神障害、貧困、複雑な家庭環境などを抱える人が主な対象となる。
 主に市区町村が設置し、児童相談所などで構成する要保護児童対策地域協議会(要対協)に登録されると、保健師らによる家庭訪問などの支援対象になる。同省の調査では09年の994人から、18年には7233人に急増した。鹿児島県では86人が登録されている。
 だが、特定妊婦に具体的な定義はない。認定は市区町村などの要対協に一任されているのが実態で、自治体の支援にはばらつきが大きい。どこでも安心して産み育てられる全国的な統一基準が必要だ。
 自治体は特定妊婦を把握する方法として、妊娠届提出時の面談や医療機関との連携を挙げる。ただ、予期せぬ妊娠や、親からの虐待など過酷な家庭環境で育ちSOSを出せない女性にとって、行政の窓口を訪れることはハードルが高いに違いない。現在登録されている特定妊婦は「氷山の一角」と指摘する専門家もいる。
 行政の母子保健と児童福祉の縦割りの弊害も指摘されている。要対協の事務局は児童福祉部門が担うことが多く、目の前の子どもの虐待リスクを減らす対応がどうしても中心となろう。妊娠届の受理などで妊婦と接点が多い母子保健部門との連携が不十分なら、適切な支援にはつながりにくい。
 自治体は受け身で相談を待つのではなく、積極的に情報収集し、訪問や働き掛けを進めるべきである。近年は妊娠相談を受ける民間団体や病院が増えており、こうした関係機関との連携も急がれる。会員制交流サイト(SNS)の活用も検討してほしい。
 新型コロナウイルス禍で女性の貧困が深刻化する今、制度の重みは増している。赤ちゃんが支援のはざまで命を落とすことがあってはならない。
 特定妊婦制度の認知度を高め、社会で母子を支える環境整備を進めていかなければならない。