[土地規制法案] 曖昧な部分が多すぎる
( 5/29 付 )

 自衛隊基地や原発など安全保障上重要な施設周辺の土地利用を規制する法案が衆院内閣委員会で可決された。与党は今国会中の成立を目指している。
 外国資本などにより買収され、日本の安保環境が脅かされる事態を防ぐ狙いがある。政府に土地の所有者や利用実態を調査し、規制できる権限を持たせる。
 リスクを回避する手だては必要だ。とはいえ、調査や規制の中身は曖昧な点があり、恣意(しい)的運用への懸念が拭えない。国会でさらに審議を尽くし、国民の理解を得なければならない。
 法案は重要施設の周囲約1キロを「注視区域」に指定。政府は土地所有者の不動産登記簿や住民基本台帳など行政機関が持つ情報を収集し、分析できるようになる。施設への妨害行為には中止命令が出せ、応じなければ罰則を科せる。
 司令部機能を持つ自衛隊基地周辺や領海の基点となる無人の国境離島など特に重要な施設周辺は「特別注視区域」とする。一定面積以上の売買は利用目的の事前届け出が義務付けられる。
 政府はこうした規制をする候補地が防衛関連施設500カ所超のほか、海上保安庁の関連施設174カ所、国境離島484島に上るとする。
 だが、具体的にどの施設が指定を受け、妨害行為がどんなものかは、法成立後に作る基本方針などで定める。基本方針は国会の承認が必要なく、運用にチェックが働かない恐れがある。
 政府が収集する情報に関しても裁量に任される。安保上の危険がないかを判断するという名目で、調査内容が思想信条や家族構成、交友関係、海外渡航歴などへと際限なく広がる可能性は否めない。
 さらに、政府は自衛隊基地や原発周辺での反対運動を規制するかについて「対象になるとは言えない」とする一方、機材搬入阻止への規制には含みを残す。市民団体からは「物言う人たちが黙らされる仕組み」という批判が湧き起こっている。
 法案には個人情報保護に十分配慮し、規制は必要最小限にとどめるとの規定が盛り込まれた。私権制限への配慮や、運用に国会や自治体が関与するとした付帯決議案も可決した。しかし、どのようにして実効性が担保されるかは不透明なままだ。
 政府はこれまでの審議で、外国資本による土地取得で自衛隊基地の運用などに支障が生じた事例を示していない。野党には立法化の必要性そのものを疑問視する声がある。
 テロなどを防ぐ核物質防護設備が長期間故障していたことが発覚し、事実上の運転禁止命令を受けた東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の例もある。安保上のリスクを考えるのであれば、現状の備えの再点検こそ急ぐべきだ。