[五輪観客入り] リスクを排除できるか
( 6/19 付 )

 東京五輪・パラリンピック大会について、菅義偉首相は上限1万人を基本に国内観客を入れて開催する意向を表明した。
 政府と大会組織委員会、国際オリンピック委員会などによる5者協議で21日にも正式決定する見通しだ。
 開催に伴う新型コロナウイルス感染の再拡大の懸念は、観客の出入りが加わればさらに膨らむ。こうした危機感から、政府の対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志はきのう、無観客開催がリスクが最も低く望ましいと政府と組織委に提言した。
 国民の命と健康を守るため、リスクを徹底的に避けるのは当然である。首相は専門家の声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。
 上限1万人は、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の解除後、大規模イベントで定員の50%以内であれば1カ月程度の経過措置として分科会の了承も得ていた。政府は「五輪とは無関係」としていたが、首相の意向は相反するものだ。
 並行して政府は緊急事態宣言を沖縄以外の9都道府県で20日をもって解除し、うち東京など7都道府県は五輪開幕前の7月11日まで重点措置に移行すると決めた。首都圏3県の重点措置も同日まで続ける。
 五輪シフトで突進する政府の姿勢には、政権浮揚につなげて9月前半ともみられる衆院解散になだれ込みたい首相の思惑が透ける。上限1万人になれば多くの会場で払い戻しをせずに済む。組織委の事務的、経済的負担を軽減できることも背景にあるだろう。
 政府が切り札とするワクチン接種は加速しており、21日からは職場や大学での接種が本格化する。しかし、高齢者中心の現在の進捗(しんちょく)では、7、8月に集団免疫が実現するとの考え方は早計という専門家の声もある。
 五輪は多くの会場で一斉に競技が行われる。国立感染症研究所や京都大などは、観客を入れると無観客の場合に比べ感染者が累計で1万人増える可能性があり、五輪期間中に緊急事態宣言が必要になる恐れがあると分析する。
 尾身会長らは提言の中で、観客を入れる場合は他の大規模イベントの上限よりも厳しく制限し、開催地に住む人に限定する必要性を訴える。拡大の予兆があれば無観客に切り替えることも求めている。科学的根拠に基づく指摘は重く受け止める必要がある。
 また、観客を入れることが「移動しても集まってもいい」という誤ったメッセージとして伝わりかねないことも懸念材料だ。開催期間は夏休みと重なる。帰省や旅行で人出が増えると感染が拡大し、医療逼迫(ひっぱく)の恐れがある。
 首相は観客を入れた五輪開催を優先する姿勢を改め、実効性ある感染対策にこそ力を尽くさなければならない。