[黒い雨判決] 検証より救済が先だ
( 7/16 付 )

 広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を巡る訴訟で、広島高裁は一審判決を支持し、再び原告全員を「被爆者」と認める判決を言い渡した。
 「健康被害が否定できない」レベルでも認定すべきだとし、一審以上に被爆者援護法の救済理念を尊重した内容だ。画期的な判断といえよう。
 国は救済対象の区域拡大を視野に有識者検討会を設けて議論しているが、いつ結論が出るのか見通せない。判決確定を求める原告や被爆地の声に向き合い、政治決断で早期の救済に乗り出すべきだ。
 国は爆心地周辺の「援護区域」とは別に、放射性物質やすすなどを含む黒い雨が強く降った地域を「特例区域」と定義。区域内で雨の影響により特定の病気を発症した人を被爆者と認定してきた。
 今回の訴訟の原告84人は、特例区域のさらに外側にいて雨を浴び、病気になったとして広島県と広島市に被爆者健康手帳の交付を求めていた。
 昨年7月の広島地裁は、特例区域より広い範囲で雨が降ったと判断。原告らの病気は原爆の影響と想定されるとした。高裁判決はさらに踏み込み、発症しなくても雨などによる被ばくで健康被害を受けた可能性があれば認定できるとした。確定すれば救済範囲は大幅に広がる。
 国は被爆者認定において「科学的根拠」に固執してきた。だが、判決は被爆者援護法について、原爆被害は他の戦争被害とは異なる特殊なものとして制定されたとし、「戦争の主体だった国が自らの責任で救済を図る一面もある」と指摘している。救済範囲を絞ってきた国の援護行政への断罪といえよう。
 被告である県と市も長年区域の拡大を求めている。被爆者手帳の交付審査は国からの受託事務で、一審後は国の意向を受けて苦渋の選択で控訴した。
 湯崎英彦広島県知事は高裁判決を受け、「県としては上告したくない」と話している。県と市は上告を断念する方向で国を説得してもらいたい。
 昨年11月に始まった検討会は、厚生労働省が控訴の一方で地元の要望を受け入れ、設置した。降雨範囲や健康への影響を検証するが、議論は足踏み状態だ。「時間稼ぎだ」と批判の声が上がるのも当然だろう。
 原告の高齢化は進み、2015年の提訴からすでに14人が亡くなった。国はこれ以上解決を先延ばしにしてはならない。