[奄美世界遺産] 自然との共生 出発点に
( 7/27 付 )

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界自然遺産登録を決定した。
 奄美の生物は何百万年もの間、大陸との交流がなく独自の多様性を育んできた。希少な動植物が今でも数多く生息する奄美の価値が世界的に認められたことを喜びたい。
 政府が2003年5月に遺産候補に選定して18年、3年前にはユネスコの諮問機関が登録延期を勧告した。試練を乗り越え、長年の悲願が実ったのは島民や関係者が登録に向けて尽力してきたからにほかならない。
 亜熱帯照葉樹の森と、そこに生きる動植物を守るための取り組みは、今後ますます重要になる。課題を一つ一つ解決しながら“世界の宝”を末永くつないでいくのが、現代に生きる私たちに課せられた使命である。
 世界自然遺産登録はゴールではない。自然と人が共生するモデルとなる地域づくりへの出発点としたい。

■生態系をどう保全
 登録が決まったのは奄美大島と徳之島、沖縄本島と西表島の4島にまたがる計約4万3000ヘクタールの区域で大部分を森林が占める。諮問機関は今年5月、アマミノクロウサギなど世界でも珍しい固有種が多く生息し「生物多様性の保全上、重要な地域」と評価、登録を勧告していた。
 これまで国や県、地元自治体は自然遺産登録に向けてクロウサギの天敵である外来種のマングース、野生化した猫(ノネコ)の捕獲に力を入れてきた。
 ユネスコの評価はこうした取り組みが奏功した証しでもある。身近な自然の価値を改めて認識した島民は多いのではないか。島を誇りに思う気持ちが一層高まったはずだ。
 だが、名実ともに「遺産の島」となるには課題が山積する。マングースは根絶が目前に迫っているとはいえ、ノネコの捕獲数はなかなか伸びず、野生化したヤギも目撃されている。生態系を守る上で放置できない。
 さらに、マングースが減ってクロウサギの数が増加、生息域が広がったこともあり、交通事故に遭うケースが増えている。20年に奄美大島と徳之島で起きた輪禍死は過去最多の66件に上り、今年も多発している。
 国の特別天然記念物イリオモテヤマネコがすむ西表島では、県道の下に動物の通り道となるトンネルを整備している。事故防止を呼び掛けるだけでなく、こうした取り組みを参考に、フェンスの設置などハード面の整備を急ぐ必要がある。
 クロウサギが特産のタンカンの樹皮をかじって枯らすなど農作物への被害も出ている。防護柵を設けるなど対策は進むが、クロウサギとの共生へ知恵の絞りどころだろう。
 また、希少な昆虫や植物の捕獲・盗掘は後を絶たず、ごみのポイ捨ても一向に減らないという。まずは住民の意識を高めることが肝心だ。その上で、こうした悪質な行為に目を光らせていきたい。
 奄美では自然を敬い、自然の恵みを生かした暮らしが島唄や大島紬、黒糖焼酎といった独自の文化を育んできた。アマミイシカワガエル、アマミエビネ、トクノシマトゲネズミなど固有種がすむ森の生態系を保全し次代に受け継ぐことは、文化の継承にもつながるに違いない。

■観光客対策が急務
 世界自然遺産に登録され、新型コロナウイルスが収束すれば、世界中からツアー客が押し寄せることが想定される。島民の日常生活に影響が及ばないよう受け入れ態勢を早急に整えなければならない。
 その一つは、観光の目玉であるクロウサギをはじめ、希少動植物を観光客にどう見せ、価値を伝えていくかである。
 環境省は輪禍を防ぐため、夜間に野生生物を観察できる人気スポットの車両数を減らす策を模索している。また、大和村は交通事故などで保護されたクロウサギのリハビリを兼ねた展示施設を24年度に開設予定だ。
 奄美大島中南部の金作原国有林など希少な植物の多いスポットにはツアー客が大勢訪れるだろう。観光客が増えても環境が悪化しては元も子もない。来島者に自然観察のルールを守ってもらうためにツアーガイドをさらに充実させたい。
 奄美はシマ(集落)の雰囲気や島唄、海、料理、方言など観光資源に事欠かない。動植物だけではない奄美の奥深さを存分に味わってもらい、魅力を世界に発信していくためには受け皿づくりが欠かせまい。
 日本復帰から68年、島の経済が「奄美群島振興開発特別措置法」(奄振法)に支えられてきた面は否定できない。自然遺産登録が観光を軸にした産業の活性化を後押しするだろう。
 だが、問われるのは経済と生物多様性の保全をいかに両立させるかである。奄美は「真の自立」に向け、正念場を迎える。