[「黒い雨」確定へ] 救済拡大 早急に道筋を
( 7/28 付 )

 広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」を巡る訴訟で、原告全員に被爆者健康手帳の交付を認めた広島高裁判決について政府は上告を断念した。内部被ばくを含め広く被爆者認定すべきだとした判決はきょう確定する。
 戦後76年、これまで被爆者の認定範囲を狭めてきた国の責任は重い。訴訟参加のいかんを問わず、同様の立場の人々を手帳交付の対象とするなど救済範囲の拡大に向けた具体的な道筋を早急に示すべきである。
 国は爆心地周辺にいた人のほか、黒い雨が1時間以上降り続いたとされる「特例区域」にいて雨に打たれ、がんなどを発症していた人を被爆者と認定してきた。
 これに対し今月14日の広島高裁判決は、黒い雨の範囲を特例区域より広く捉えた。放射能によって健康被害が生じる可能性があれば被爆者と認めるべきだと判断、特定の病気の発症を認定要件とした一審判決より踏み込んだ。
 菅義偉首相は26日、「多くの方が高齢者で、病気の方もいる。速やかに救済すべきだと考えた」と上告見送りの理由を表明、原告84人全員に速やかに手帳を交付すると述べた。
 原爆投下を巡り、戦争を遂行した国がその責任において救済を図るというのが被爆者援護法の理念である。原告15人が既に他界し、上告断念は遅きに失したとはいえ、健康管理手当をはじめ各種手当を受けられるよう対応を急いでほしい。
 一方、寝たきりの人もいるなど原告団に加われなかった黒い雨の体験者は多いとされる。政府は「訴訟への参加・不参加にかかわらず認定し救済できるよう早急に対応を検討する」との首相談話を閣議決定した。救済漏れが生じないよう、実態を詳細に調査する必要がある。
 さらに、もう一つの被爆地である長崎でも国が指定する地域外にいた「被爆体験者」らが被爆者と認定するよう県や市などを相手に訴えた。第1陣、第2陣とも最高裁で敗訴が確定したが、原告の一部が再提訴している。
 加藤勝信官房長官は、救済措置の対象に長崎も含めて検討する考えを示した。原爆投下時、広島や長崎にいた人々を区域で分けるのが妥当なのか。実態に即して援護できる運用の在り方など検討すべきである。
 国は広島高裁判決について「科学的知見に基づかない」として、手帳交付事務を担う被告の広島県と広島市に上告するよう要望したが、県と市は受け入れなかった。
 上告期限が迫る中、一転して政治決着へかじを切った背景には、低下する内閣支持率や次期衆院選をにらんだ政権の思惑がうかがえる。今後、どのような救済策を打ち出せるのか。菅首相の本気度と指導力が問われる。