[ネット中傷厳罰] 教育通じ地道な啓発を
( 9/16 付 )

 インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策を強化するため、法務省は刑法の「侮辱罪」を厳罰化し、懲役刑を導入する方針を固めた。きょうの法制審議会総会に諮問する。
 ネット上の中傷は東京五輪の選手にも向けられるなど、深刻な人権侵害が社会問題化している。厳罰化は一定の抑止力となることが期待されよう。
 併せて、正当な批判活動との違いも明らかにする必要がある。何が中傷に当たるのか、判例を積み上げるとともに、教育現場での地道な啓発活動を通して理解を広げることが欠かせない。
 侮辱罪の現行の法定刑は「拘留(30日未満)か科料(1万円未満)」だが、法制審では「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を追加する案を検討する。公訴時効も1年から3年に延びる。
 具体的な事実を示さなくても公然と悪口を言った場合に適用される侮辱罪の罰則は、具体的事例を示して人をおとしめる名誉毀損(きそん)罪より軽い。ネット普及による悪質な中傷は想定されておらず、1907(明治40)年の刑法制定時から大幅な見直しはなかった。
 昨年5月、女子プロレスラーの木村花さんがテレビのリアリティー番組の内容についてネット上で中傷を受けた後に死去。男性2人が侮辱罪でそれぞれ科料9000円の略式命令を受けたが、「軽すぎる」との批判もあった。被害を繰り返さないためにはどのような刑罰が適切か、法制審で慎重に議論を重ねてもらいたい。
 会員制交流サイト(SNS)などによる人権侵害は、子どもたちも無縁ではない。
 文部科学省のいじめに関する調査では、パソコンや携帯電話を用いた中傷の件数は2019年度1万7924件で5年前の2倍以上に増えた。昨年11月、東京都の小学6年女児がいじめを訴える遺書を残して自殺した事案では、学校で配布されたタブレット端末で女児の悪口が送信されていた。
 これからの社会にデジタル端末の活用は不可欠だ。一方、ネットでの心ない発言は他人を傷つけ、ときには命を奪うことさえある。被害者にも加害者にもならないよう、子どものうちから安全な使い方を学ぶことが重要だ。
 ネット中傷の被害者救済では総務省も対応を強化する。匿名の投稿者を特定しやすくする改正プロバイダー責任制限法が4月に成立。これまでは2回必要だったが、1回で完結する新たな裁判手続きが創設された。
 法整備や厳罰化の必要性は分かるが、例えば政治家への正当な批判を封じるような、恣意(しい)的な運用はあってはならない。「表現の自由」や「通信の秘密」への配慮と、人権の保護が両立できるよう、バランスの取れたネット対策を求めたい。