[膨らむ防衛費] 地域安定は外交の力で
( 9/23 付 )

 防衛省は2022年度予算の概算要求で過去最大規模の5兆4797億円を計上した。21年度当初予算比で2.6%増となる。
 軍拡を急速に進める中国への対処や台湾情勢の緊迫化をにらみ、南西諸島の防衛力強化を図る。岸信夫防衛相は「わが国周辺の安全保障環境がこれまでにない速度で厳しさを増している」と大幅増強の理由を説明した。
 だが、各国が互いに軍事力の増強を繰り返せば、逆に危険性が増す「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。地域の安定には、外交の力で信頼関係を醸成する道こそ肝要であることを忘れてはならない。
 概算要求では沖縄・石垣島に陸上自衛隊の地対空・地対艦ミサイル部隊などを新設。島しょ部へ弾薬や燃料を運ぶ輸送艦船2隻も取得する。
 新たな防衛領域といわれる宇宙の関連経費は840億円。研究開発費は、人工知能(AI)や無人兵器など戦闘の様相を一変させる「ゲームチェンジャー」技術に注力するため、過去最大の3257億円を計上した。
 気掛かりなのは、米中対立や中国の台湾侵攻への可能性などを理由に、政府の防衛力増強への動きが加速していることだ。4月の日米首脳会談の共同声明に盛り込んだ「日本の防衛力強化への決意」を実行に移しているとも受け止められる。
 21年版防衛白書は、中国の軍事動向を「安全保障上の強い懸念」と記し、台湾情勢の安定が「日本の安全保障や国際社会の安定にとって重要」と初めて明記した。防衛装備や部隊編成の整備目標、経費の詳細を定める19~23年度の「中期防衛力整備計画」を、防衛費を増額するため年内にも前倒しして改定する方向で調整に入っている。
 しかし、台湾有事が現実となれば、米側の要請で自衛隊が安全保障関連法に基づいて米軍の後方支援に回る可能性もある。中国との衝突に発展したり、偶発的な衝突に巻き込まれたりする恐れも否めない。
 馬毛島基地整備に伴う再編交付金など米軍再編関連経費などは金額を示さない「事項要求」とした。年末の予算編成でさらに防衛費が膨らみ、目安とされる国内総生産(GDP)の1%を上回る懸念もある。新型コロナウイルス対策などで財政が厳しさを増している中、国民の理解が得られるだろうか。
 菅義偉首相は米誌のインタビューに「厳しい財政状況でも必要な防衛費は予算化されるだろう」と語っている。一方、菅政権の外交からは中国とどのような関係を築くのか、方針も具体的な動きも見られなかった。
 周辺地域の平和や安定をどう守っていくのか。自民党総裁選の候補者の主張や、近づく衆院選での各党の戦略も注視していかなければならない。