[岸田自民新総裁] 「負の遺産」との決別を
( 9/30 付 )

 退陣を表明した菅義偉首相の後継を決める自民党総裁選で、岸田文雄前政調会長が決選投票で河野太郎行政改革担当相を破り、新総裁に選ばれた。来月4日召集の臨時国会で首相に指名される。
 安倍晋三前首相から菅氏が引き継ぎ9年近く続いた安倍・菅政権は、異論を排除する独善的な政治手法が目に余った。国会を軽視し説明責任を果たさない姿勢は深刻な政治不信を招いた。
 岸田氏はこうした「負の遺産」と決別しなければならない。総裁選後の両院総会で「生まれ変わった自民党を国民に示す」と宣言した通り、最大の課題と位置付ける党改革を断行する実行力が求められる。
 岸田氏は8月、党役員任期制限を公約の柱に掲げ、総裁選への立候補を真っ先に表明した。当初は菅氏との争いが想定されたが、支持率が続落した菅氏の退陣表明で構図は一変。河野氏のほか、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行と初めて複数の女性候補も名乗りを上げ、4人の混戦となった。
 岸田氏は総裁を除く党役員は1期1年、連続3期までとすることで権力の集中と惰性を防ぐと強調。経済成長の適切な分配による格差解消を訴え、自派閥の岸田派を軸に支持を広げた。外相、政調会長を歴任してきた安定感も評価されたとみられる。
 当初は、改革派として高い知名度を誇る河野氏が優位とみられた。だが、「女系天皇容認」「脱原発」といった過去の言動に対しベテラン議員を中心に拒否感が根強く、議員票の広がりを欠いた。
 今回の総裁選は党内に“地殻変動”をもたらしたとの見方がある。衆院選への危機感を背景に、若手らが派閥の枠を超え積極的に活動し、候補者とも意見交換した。これが一時的な動きに終わり、派閥主導の密室政治に後戻りすれば国民を落胆させるだけだろう。
 また、コロナ下で中止した地方遊説に代えて導入された政策別のオンライン討論会が目を引いた。コロナ対策や安全保障、エネルギーなどテーマ別に行われた論戦の発信は、政策課題への理解を深める効果もあった。
 気掛かりなのは、安倍政権時代の森友学園への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざん問題で、岸田氏がいったん再調査する姿勢を示しながら撤回したことだ。支持を得るため安倍氏や麻生太郎財務相に配慮したとすれば国民は納得するまい。再考を求めたい。
 敗れたとはいえ、河野氏が得た4割を超す地方票は国会議員との意識の乖離(かいり)の表れとも受け取れる。コロナ禍をはじめ課題が山積する中、衆院選は11月前半の実施が有力視される。岸田氏は「聞く力」が重要と訴えたことを忘れず、国民の声に真摯(しんし)に耳を傾け、政権党を導いていかなければならない。