[真鍋氏物理学賞] 脱炭素加速する契機に
( 10/7 付 )

 今年のノーベル物理学賞が、地球温暖化など気候変動の研究に貢献した真鍋淑郎・米プリンストン大上席研究員(愛媛県出身、米国籍)とドイツの研究者ら計3人に決まった。
 真鍋氏は大気の対流などを考慮しコンピューターで気温の変化を予測する気候モデルを世界で初めて考案し、二酸化炭素(CO2)の増減が気温に影響することを示した。温暖化が世界的な課題になるはるか前から影響予測に取り組んだ先駆性が高く評価された。
 物理学賞が地球科学の研究者に授与されるのは極めて珍しい。温暖化への危機感が高まる世界へノーベル委員会からのメッセージと言えよう。科学の警告をしっかりと受け止め、脱炭素をさらに加速する契機としたい。
 真鍋氏は1950年代から気象に関する研究に従事。58年、プリンストン大の一角にある米海洋大気局・地球流体力学研究所の招きで渡米し、研究を重ねた。
 地球全体の大気の動きをコンピューター上で再現した後、大気の流れと海洋の循環を組み合わせ気候の長期的な変化を予測する大気海洋結合モデルを開発。温暖化研究になくてはならないものになっている。
 CO2など人間の活動で排出される温室効果ガスと温暖化の関係は以前は不明確だったが、真鍋氏の研究成果をもとに解明が進んできた。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による今年8月の報告書は「人間の影響で温暖化したことは疑う余地はない」と明言した。
 2015年には、全世界で温室効果ガスの排出削減に取り組むパリ協定が採択され、各国がそれぞれの削減目標に取り組む素地もできた。日本も50年に排出量実質ゼロの目標を掲げる。
 気温上昇を抑えるための具体的な目標などを打ち出せるのも科学的に信頼できる予測があればこそだ。過去の気候データに加え、人為的影響が加わると将来どの程度気温が上昇するかといった予測分野を開拓した真鍋氏の功績は大きい。
 だが、今のままでは排出削減は進まず、気温上昇を食い止めるのは難しいとみられている。今月末から各国の温暖化対策を話し合う国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が英国で開かれる。国際的な最重要課題にどう取り組むか。今回の受賞による存在感の高まりが期待される日本をはじめ、各国の本気度が問われる。
 真鍋氏は好奇心が研究に駆り立てたと語る。しかし、日本では「すぐに役立つこと」を重視する傾向があるとされ、より良い環境を求めて海外に出る若者たちがいる。後に続く世代が興味ある研究に打ち込めるよう、研究インフラである国立大の経営改善を含めシステム全体の立て直しを急ぐべきだ。