[所信表明演説] 「選択」へ具体策提示を
( 10/9 付 )

 岸田文雄首相が就任後初めて所信表明演説を行った。新型コロナウイルス感染症の対応に万全を期し、「成長と分配の好循環」を柱とする「新しい資本主義」実現への決意を示した。
 「国民」の言葉を用いて繰り返し呼び掛けたのは、国民の信頼を取り戻そうという狙いだろう。だが、具体的な中身は乏しく、財政再建をはじめ痛みを伴う政策へも踏み込んでいない。このままでは信頼も共感も築けまい。
 首相は14日に衆院を解散し、31日に衆院選を行う方針だ。この短期間で国民に政権選択を迫るからには具体策を早急に示すべきである。
 演説では、新型コロナ対応を最優先課題に挙げ、司令塔機能の強化や人流抑制と医療資源確保のための法改正で危機管理を抜本的に見直す方針を表明した。
 1日当たりの新規感染者数が2万5000人を超えていた「第5波」は落ち着いてきたが、感染再拡大の懸念はなくならない。楽観的な見通しで対策が後手に回ったと批判を浴びた菅前政権時代の対策を徹底検証し、効果的な対策を講じていかなければならない。
 コロナ禍で影響を受けた事業者や非正規・子育て世帯への給付金を実施すると説明したが、具体的な対象や規模は示さなかった。これでは選挙目当ての「ばらまき」と受け取られても仕方ないのではないか。
 一方、新しい資本主義は、格差拡大を招いたと批判が根強い小泉政権以降の競争重視の新自由主義的な政策を転換するものだ。首相は「車の両輪は成長戦略と分配戦略」として中間所得層の拡大に向けて政策を総動員すると訴えた。
 成長戦略は「科学技術立国の実現」に向けた投資が柱。地方でのデジタル関連投資を通じ地方と都市の格差縮小も図る。分配面では、賃金を上げる企業への税制支援を抜本強化すると説明した。経済的・地域的な格差是正に向けてさらに知恵を絞る必要がある。
 ただ、国と地方の基礎的財政収支を2025年度に黒字化する財政健全化目標には触れなかった。来年から団塊世代が75歳になり始め持続可能性が危ぶまれる社会保障制度の見直しにも踏み込まなかった。負担を伴う全体像を早急に提示しなくてはならない。
 さらに安倍・菅政権が信頼を損なう一因となった「政治とカネ」や森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざんの問題に言及はなかった。独善的な姿勢が際立った両政権の「負の遺産」を清算する姿勢がうかがえなかったことは残念だ。
 首相は総裁選でも国民への説明を重視する姿勢を強調してきた。それならば、野党が開催を求める臨時国会での予算委員会に応じ、政策論争を通じて国民に選択肢を示すよう求めたい。