[ノーベル平和賞] 報道は民主社会の礎だ
( 10/10 付 )

 今年のノーベル平和賞は、ロシアとフィリピンのジャーナリストに授与されることになった。
 ジャーナリズム活動への平和賞は第2次大戦後初めて。2人はそれぞれ強権下で、民主主義と恒久平和の前提である表現の自由を守る努力をしてきたことが授賞理由である。
 表現の自由に対する抑圧が世界的に広がっていることへの警鐘でもあろう。報道の自由が失われれば民主主義は崩れ去る。強権性を増す国へのメッセージであり、報道が民主主義発展の土台だということを改めて示した。
 ロシアのドミトリー・ムラトフ氏は、プーチン政権に臆せず調査報道を続ける独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の創刊に関わり、1995年から編集長として調査報道を支えた。
 住民の人権を踏みにじる政権の実態を告発した女性記者が射殺されるなど、言論への暴力で記者6人を次々と失った。同氏は「賞は犠牲になった仲間に与えられた」と語っている。
 フィリピンのマリア・レッサ氏は、ドゥテルテ政権に批判的なニュースサイト「ラップラー」を率い権力乱用や権威主義に対峙(たいじ)、容疑者殺害を容認する政権の麻薬取り締まりを批判した。ソーシャルメディアが、偽ニュース拡散に利用される危険性も訴えている。
 ノーベル賞委員会は両氏について「民主主義と報道の自由が逆境に直面している世界で、理想のために立ち上がった全てのジャーナリストの代表」とし、表現の自由は民主主義や紛争回避に「不可欠」としている。
 「政府の過ちには声を上げなければならない」。レッサ氏が語った決意は全てのメディアへのエールに違いない。
 現代社会では偽の情報が主にインターネット空間で広がっている。時に誤った情報が浸透し、事実との境界が曖昧になることも少なくない。
 偽ニュースがはびこったり、政府に対する批判報道が圧力を受けたりする例は世界中に広がる。
 トランプ前米大統領は会員制交流サイト(SNS)を通じ、誤った情報を繰り返し発信した。中国では香港国家安全維持法で国に批判的な香港紙、蘋果日報(リンゴ日報)が廃刊に追い込まれた。ジャーナリズムへの信頼が失われかねない危機にあると言っていい。
 日本も例外ではない。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が毎年発表する各国の報道の自由度ランキングで、日本は今年67位である。2010年は11位だったが、東京電力福島第1原発事故を機に下がり、以降は低迷している。
 表現、報道の自由が世界的に脅かされている今、偽情報と報道への圧力を排する努力が一層求められよう。市民に真実を伝えるたゆまぬ努力が必要であることを肝に銘じたい。