[衆院選公示] 郷土見つめ直す機会に
( 10/20 付 )

 「論語」に為政者の心構えを説く一節がある。
 「寡(すく)なきを患(うれ)えずして均(ひと)しからざるを患う」
 政治に携わる者は富が少ないことを嘆くのではなく、貧富の差があることにこそ心を痛めなければならない。孔子は格差のない社会の実現が政治家の務めだと唱えたのだろう。
 富める者と富まざる者の所得格差を広げ、分断を招いたとされる新自由主義の見直しが世界的な潮流になっている。日本でもその動きが出始めている。
 小泉政権が推し進めた規制緩和や構造改革を、安倍政権もアベノミクスの一環として引き継いだ。その結果として生まれた格差を是正、中間層を拡大しようと与野党が訴えている。
 4年ぶりの政権選択選挙となる衆院選が公示された。鹿児島県の4選挙区には10人が立候補し、選挙戦がスタートした。
 新型コロナウイルス対策や経済政策のほか、安倍、菅両政権から続く自民党政治が主な争点となる。格差のない社会をどう築くのか。各政党、各候補者の声に耳を傾けるとともに、郷土を見つめ直す機会にもしたい。

■次世代を見据えて
 安倍政権が看板政策として地方創生を打ち出してから約7年がたつ。東京一極集中是正に向け、地方移住への支援や税制優遇による企業移転に取り組んだ。だが、目に見える成果を上げているとは言い難い。
 景気回復の実感が湧かないまま、この1年半は新型コロナの感染拡大が衰退に追い打ちを掛けた。鹿児島銀行と九州経済研究所(KER)は9月末、最近の県内景況を「全体として弱含んでいる」と発表、観光関連は「低調」と判断した。
 人口減少にも歯止めがかからない。2020年10月時点の国勢調査速報値によると、総人口は戦後初めて160万人を割り込んだ。地域の中核を担うべき学校やスーパーなどが次々と閉鎖され、高齢化も進む。医療への影響も深刻化しかねない。
 地方選で人口減対策を掲げる候補は少なくないが、決め手に欠くのは否めない。自民党が掲げる地方行政のデジタル化やテレワーク拠点の整備に実効性はあるのか。各候補者は地方活性化をどう図るのか処方箋を提示し、競ってもらいたい。
 西之表市馬毛島への米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転と自衛隊基地整備計画の是非も争点である。市民グループと野党3党は計画に反対する共通政策を結んだ。
 米軍岩国基地(山口県岩国市)所属のKC130空中給油機による海上自衛隊鹿屋航空基地での訓練は1年以上実施されていない。訓練に反対する市民団体からは市民の関心が低下している間に、米軍利用が拡大するのではと懸念する声が聞かれる。
 九州電力は川内原発1号機で運転延長申請に必要な特別点検を始めた。法定の40年を超える運転が視野に入る中、安全と安心は確保できるのか。
 安全保障やエネルギー政策といったテーマは当の選挙区だけの争点と考えるべきではない。子や孫の世代にどのような鹿児島を引き継ぐのか。全ての有権者に問われている課題である。
 各党、各候補者の現状認識や政策を吟味し、投票先を選択したい。一票一票の積み重ねが国の進むべき道を決める。

■危機的な民主主義
 流行第6波が懸念されるコロナ対策とともに、経済政策で国民の共感が得られるかが選挙戦の鍵を握るだろう。
 岸田文雄首相(自民党総裁)は「成長と分配の好循環」による中間層の所得引き上げを訴える。一方、立憲民主党をはじめ、野党の多くがさまざまな形での消費税減税を主張。現金給付を掲げる党も少なくない。経済再生への筋道は財源に裏打ちされたものでなければならない。
 政治への信頼をどう取り戻すかも問われる。安倍、菅両政権は森友、加計学園や桜を見る会を巡る問題、河井克行元法相と案里夫妻の買収事件、日本学術会議の会員任命拒否などについて説明責任を果たさなかった。
 国会で審議を尽くし、公文書を適切に管理し、情報開示に努めるという民主主義の根幹がないがしろにされてきた。岸田首相が総裁選時に表明したように「民主主義が危機にひんしている」のが実態ではないか。
 民主主義の再生には何が必要か考えたい。政治家は政策決定過程を公開し、国会での徹底した議論が求められる。これまでの政治の在り方を厳しく総括しなければならない。
 国民は当事者意識を持って国会での議論を見守り、声を上げていくことが欠かせない。選挙は身近なテーマから環境対策など地球規模の問題まで関心を広げられる機会である。
 与野党はこれまでの政権の仕事ぶりについても論戦を展開してほしい。国民は主権者として責任ある一票を投じることが民主主義再生への一歩である。