[安倍元首相警護] ミスの原因 徹底解明を
( 7/16 付 )

 安倍晋三元首相が奈良市で参院選の街頭演説中に銃撃され死亡した事件は、要人の安全をいかに守るかという課題を社会に突き付けた。
 選挙は民主主義の基盤であり、政治家が有権者と触れ合う重要な機会だ。警察当局は容疑者の動機や背景など全容解明を進める一方、警護の問題点を究明し国民に説明すべきである。
 逮捕された山上徹也容疑者は、演説が始まって間もなく歩道から車道に出て、安倍氏の背後に近づいた。ショルダーバッグから手製の銃を取り出して発砲。さらに距離を詰め、安倍氏が振り向きかけた時、再び発砲した。
 警察の最大の落ち度は、警護要員の誰一人として安倍氏に近づく容疑者に気付かなかったことが挙げられよう。
 警視庁のSP(警護官)や奈良県警の警察官が配置されていたものの、交流サイト(SNS)の動画などを見る限り、誰も声をかけたり制止したりしていない。
 最初の発砲音で警護要員が動き出し、安倍氏を守ろうとして防弾仕様のケースを掲げたが、間に合わなかった。2発目の銃撃が致命傷を与えたとみられている。
 銃声が聞こえたら要人を引きずり倒し、覆いかぶさるのが警備の手法と言われる。1発目から2発目の発砲まで3秒ほどあったにもかかわらず、そうした様子はなかった。
 制服警察官を目立つように配置しておらず、安倍氏の後方ががら空き状態になっていた。警察庁がチームを設置して検証を始めており、来月にもまとまる結果を待ちたい。
 要人警護の中でも、選挙は特に難しいとされる。街頭演説には不特定多数が集まる上、候補者らは聴衆と接近することが少なくない。
 警察官は警護対象者を見ず知らずの人から引き離したいかもしれないが、対象者はできるだけ多くの人と接したいはずだ。有権者との接点が奪われないように新たな警備の在り方を探る必要がある。
 一方、銃が手製だったことにも驚く。一度に6発の弾丸が発射できる散弾銃のような仕組みという。山上容疑者は昨年春ごろから銃をつくり始めたと供述し、自宅からも同様の手製銃7丁が押収された。銃や火薬の製造方法は、インターネットで情報を得たとみられる。
 現場検証では、発砲場所近くの立体駐車場の壁に弾痕のような穴3カ所が発見され、中から弾丸とみられる金属片が数個見つかった。流れ弾の方向によっては、聴衆に死傷者が出かねない状況だった。
 殺傷能力のある銃を自ら製造できた経緯についても捜査を尽くし、対策を早急に講じなければ、国民の不安は高まるばかりだ。