[奄美世界遺産] 観光客分散を急ぎたい
( 8/12 付 )

 世界自然遺産に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」が登録されてから1年が経過した。
 貴重な生態系の保全と、観光への活用を両立させる取り組みは緒に就いたばかりである。住民と関係機関が一体となって、世界の宝を後世に引き継ぐ使命をあらためて確認したい。
 奄美大島では、新型コロナウイルス感染が比較的落ち着いた昨秋以降、エコツアー客が増えてきた。自然体験の場として希少種が多い金作原(きんさくばる)国有林(奄美市名瀬)に人気が集中し、生態系への負荷が懸念されている。
 金作原には、国や県などでつくる連絡会議が策定したルールがあり、認定ガイドが案内できる人数や乗り入れ車両数を制限している。それでも複数の団体が同じ時間帯に行き交うことがあり、狭い遊歩道の路肩にある希少植物を踏みつけかねない状況だ。
 ツアー客を分散させようと、地元では旧県道の役勝(やくがち)エコロード(同市住用)の活用を求める声がある。豊かな常緑広葉樹林が広がり、川には絶滅危惧種のリュウキュウアユがすむ。魅力あるコースを作り、ガイドも育てたい。
 世界遺産として先行する屋久島でも過度の登山客が押し寄せるオーバーツーリズムが生じ、根を踏まれるなどした縄文杉の樹勢が衰えたり、し尿処理が追い付かなくなったりした。生態系を損ねてからでは手遅れだと肝に銘じ、先手先手で策を講じるべきだ。
 登録地域が住民の生活圏に近いのが「奄美・沖縄」の特徴である。国の特別天然記念物アマミノクロウサギは生息域が広がっていることもあって、交通事故死(ロードキル)に歯止めがかからない。昨年は奄美大島と徳之島で計76匹に上り、過去最多を更新した。
 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は登録時、日本にロードキル対策を要請し、今年12月までに進み具合を報告するよう求めている。県や市町村などは、一部区間で効果がみられた防護柵・ネットを増やす方針だ。ノネコ(野生化した猫)による捕殺を減らす取り組みも着実に進めなければならない。
 息の長い保全活動が求められる中、徳之島で出前授業や副読本作りといった自然を学ぶ取り組みが活発化しているのは心強い。未来を担う子どもたちが郷土の価値に気付けば、不法投棄などをなくす意識づくりにもつながるはずだ。指導者の育成も急ぎたい。
 登録からちょうど1年の先月26日、環境省の奄美大島世界遺産センターが役勝エコロード近くにオープンした。模型や映像、剝製で森林環境を再現している。教育や情報発信の拠点として最大限活用されることを望む。
 希少生物の島外持ち出しや植物盗掘など、自然遺産を取り巻く負の側面についても展示を充実させ、住民や観光客の啓発につなげてほしい。