[米の中絶権利否定] 社会の分断加速危ぶむ
( 8/14 付 )

 妊娠15週以降の人工中絶を原則禁じる米南部ミシシッピ州法の合憲性が争われていた裁判で、米連邦最高裁は6月、これを合憲とする判決を下した。
 中絶を合衆国憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード」判決を覆す結果だ。胎児が子宮外で生存可能になるとされる24週ごろより前の中絶を禁じることはできないとした同判決は「根拠が薄弱」と批判した。
 宗教的価値観を重視する保守州での規制拡大は避けられない。一方、リベラル派は反発の声を上げる。バイデン米大統領(民主党)は最高裁を批判し、連邦議会で中絶権を法制化する必要があると訴えた。
 社会の分断と対立が加速し、混乱が広がることが危ぶまれる。
 最高裁の判断以降、8月初めまでに全米の12を超す州で中絶禁止や規制強化が行われた。
 中絶を禁じる州の住民が中絶を望む場合、容認している他州や外国へ移動しなければならない。バイデン氏は支援措置として、低所得者向け医療保障「メディケイド」を活用する費用負担の軽減策などを盛り込んだ大統領令に署名した。
 女性が子どもを産む・産まないを自ら決定し、安全で負担の少ない中絶法を選ぶ「リプロダクティブ権」は、国連主催の会議で認められた人権の一つだ。世界の潮流に逆行する動きに、各国首脳や国際機関から懸念の声が出るのは当然だ。
 今回の最高裁判断は、保守派の判事3人を連続して送り込んだトランプ前大統領(共和党)の「政治的な遺産」との指摘も挙がる。現在、計9人の判事のうち6人が保守派で、リベラル派は3人。均衡が大きく崩れた形だ。
 長く良識の府とされてきた連邦最高裁が、米国を二分する争点に踏み込む判決が相次ぐ。
 6月には銃規制でも動きがあった。拳銃を外で持ち歩くための条件を厳格に定めたニューヨーク州法を、「違憲」と判断した。銃保有の権利を求める保守派の不満に応えた形だ。
 州議会はこれに対抗。直後、多くの公共の場で拳銃所持を禁止する州法を成立させた。
 また最高裁は、二酸化炭素の排出を減らす連邦政府の権限を規制する判断も示した。バイデン政権が重視する地球温暖化対策には打撃となる。
 最高裁は一連の判断で米社会の分断に拍車をかけていると言わざるを得ず、多くの国民が背を向ける。世論調査で最高裁を信頼するとの回答率は25%と、昨年から11ポイントも減ったという。
 米国は議会選や知事選が行われる11月の中間選挙を控え、政治の季節に入った。国際情勢が不安定な中での過剰な対立は、国の威信を損なってしまうことを理解すべきだ。