[終戦記念日] 平和外交に徹する時だ
( 8/15 付 )

 戦争の現実をいま、目の当たりにしている。ウクライナ各地でミサイルが飛び交い、建物は炎を上げて崩れ落ち、灰色の街が広がる。ロシア軍に破壊された学校など教育施設は2000カ所を超えたという。
 遺体を埋めるための穴が掘られている。命が助かっても家族は引き裂かれ、地下のシェルターに身を潜める人たちがいる。為政者の野心や権勢欲の犠牲になるのは罪のない市民である。
 日本を取り巻く安全保障環境も悪化している。中国は軍備拡張を急速に進め、台湾周辺で軍事活動を活発化させる。北朝鮮の核・ミサイル能力は飛躍的に向上した。
 先月末の全国世論調査によると、日本が今後、戦争をする可能性があるとした人は半数近くに上り、年々増えている。若年層ほど戦争の脅威を感じていることも明らかになった。
 太平洋戦争の終結から77年を迎え、緊迫する東アジア情勢にどう対処するのかが問われている。日本を再び戦場にしてはならないという強い意志を持ち、国際社会の中で進むべき道を考えたい。

国防力偏重を懸念

 先月、閣議報告された2022年版防衛白書は、ロシアと中国の軍事動向の警戒レベルを引き上げた。北朝鮮には「重大かつ差し迫った脅威」と警戒感を示した。米中対立の最前線になっている台湾情勢の記述は昨年から倍増し、軍事的緊張が高まる可能性に触れた。
 国民1人当たりの国防費も各国と比較し掲載した。オーストラリア、韓国、英国、フランス、ドイツはいずれも日本の約2〜3倍と強調。こうした記述からは防衛費の大幅増額など国防力強化への思惑がうかがえる。
 防衛費については、北大西洋条約機構(NATO)が掲げる国内総生産(GDP)比2%の目標を初めて記載。自民党が4月末に岸田文雄首相に提出した提言とほぼ同じ内容だ。
 23年度予算の概算要求基準では、防衛費は予算額を示さず事業内容だけの要求を認めた。年末に改定する「中期防衛力整備計画」(中期防)に合わせて必要な予算を見積もる。
 岸田首相は「相当な増額」を明言しているが、防衛費増額が抑止力を高め、東アジアの安定につながるのか疑問が残る。中国や北朝鮮はどう受け止めるのか。脅威が増したと捉え、軍拡競争に拍車をかける恐れがないとは言い切れまい。
 国民の意見も分かれる。6月下旬の共同通信の世論調査では「今のままでいい」が36.3%と最も多く、GDPの「2%までの範囲で増額」が34.1%、「2%以上に増額」は13.7%だった。多額の税金が投入されるだけに国民の理解が欠かせないのは当然だ。
 政府は相手領域内でミサイル発射を阻止する「反撃能力」の保有も検討している。防衛白書は「先制攻撃とは異なる」との見解を示すが、自衛隊と米軍の一体化が進む中、緊張感を高めては元も子もない。
 日本は戦後、憲法の平和主義に基づく外交を貫いてきた。ロシアが一方的に占拠した北方領土の返還を巡る交渉でも首脳対話による解決を目指した。
 こうした外交姿勢は、多大な犠牲を生んだ太平洋戦争の反省が礎になっているに違いない。国防力重視に偏りすぎれば、戦後77年間の歩みを逆戻りしかねない。

戦争のない時代に

 ロシアの侵攻から間もなく半年になる。しかし終結の見通しは立たず、死傷者は日ごとに増え続ける。戦争がひとたび起きれば、引き返すことは困難で泥沼化する証しだろう。
 日本も戦時中、各地が空襲被害に遭い、広島と長崎への原爆投下では20万人以上が犠牲になった。日中戦争以降の日本人戦死者は軍人と一般国民合わせて約310万人にも上る。
 「戦争は非情なものだ。どんなに勉強したくてもできない。したいことがまだたくさんあったのに。戦争のない時代に生まれたかったということをのちのちの人に伝えてほしい」(宮良ルリ著「私のひめゆり戦記」)
 1945年、学徒出陣の壮行会であいさつに立ち、こう話した沖縄県八重山出身の青年は戦線で最期を遂げた。著者の宮良さんは戦争が終わった後、共に教師を志していた青年の言葉が胸の奥深くに残っていたことに気づいたという。
 戦争のない時代に生まれたかった-。ウクライナ市民の叫びにも聞こえるし、国の平和を願い戦死した一人一人の思いを代弁しているようにも思う。決して忘れてはなるまい。
 台湾有事が実際に起きた時、日本はどう対処するのか。南西諸島や本土への影響を最小限に食い止める手だてはあるのか。有事への備えと同時に、国際社会に平和外交を浸透させ、戦争を未然に防ぐことこそ、日本の役割である。