[寺田総務相更迭] 遅い決断 国民の信失う
( 11/22 付 )

 岸田文雄首相は、政治資金を巡る問題が相次いで発覚した寺田稔総務相を更迭した。
 政治資金や選挙を所管する省の責任者にもかかわらず、疑惑は続々と浮上している。あまりにずさんだ。
 1カ月足らずで3人目の閣僚交代という異常事態である。首相は今回も問題が発覚してなお続投させた。任命責任に加え、決断力を欠いた対応は国民の政治不信を増幅する。首相の責任は極めて重い。
 寺田氏を巡っては、関係政治団体が故人を会計責任者とした政治資金収支報告書を提出していた。別の政治団体への貸付金1250万円を自身の資産報告書に記載していなかったことも明らかになった。他にも選挙での買収疑惑など次々と指摘されている。
 いずれも「政治とカネ」の根幹に関わる問題だ。総務相の任にふさわしくないのは明らかにもかかわらず、寺田氏は「事務的ミス」と陳謝しつつ、自身の関与や責任を否定していた。
 財務省出身で税務署長も経験していながら、ミスで済まされると思っていたのだろうか。自民党内でも辞任論が広がったのは当然だろう。
 さらに問題なのは、閣僚の進退に対する首相の判断がいつも後手に回ることである。
 8月の内閣改造以来、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関係が指摘されてきた経済再生担当相の山際大志郎氏を更迭したのは10月になってからだった。死刑執行を担う法相の責務をちゃかすように語った葉梨康弘氏に対しても、当初は官房長官を通じた厳重注意にとどめ、更迭したのは発言の2日後だった。
 寺田氏は10月初めから政治資金問題が指摘されてきたが、首相は更迭を否定し続けてきた。
 寺田氏は首相の最側近で、首相が思い入れを持つ核軍縮・不拡散問題担当の首相補佐官を務めたこともある。所属する派閥は、葉梨氏と同じく首相が会長を務める岸田派だ。「身内に甘い」との批判が出るのも仕方あるまい。
 政治とカネへの認識が首相自身も甘かったのではないか。危機管理能力が問われ、求心力低下は必至だろう。
 首相が更迭を決断したのは、2022年度第2次補正予算案の国会審議への影響を考慮したためとみられる。それでも旧統一教会問題に対処する被害者救済新法の審議などあり、会期が来月上旬に迫る国会に影響しかねない。
 年末には23年度予算案編成や、首相が言明した国家安全保障戦略の改定作業も控える。
 政治とカネを巡る問題は別の閣僚にも指摘されており、政権発足以来、最大の難局を迎えている。リーダーとしてどう職責を果たすのか。国政の停滞はもう許されない。