[教団被害者新法] 与野党協力し一致点を
( 11/25 付 )

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を巡り、政府は被害者救済新法の概要を示した。
 寄付をしないと重大な不利益を避けられない、と不安をあおる勧誘行為を禁止し、違反した場合は刑事罰を適用するなどの内容だ。
 ただ、マインドコントロール(洗脳)下での悪質な献金要求への規制などに関し、与野党の主張は食い違う。協議を重ねて実効性を担保し、今国会での成立を図らなければならない。
 概要によると、借金や、居住中の建物を処分して寄付金を調達するよう要求してはならないと明記。首相は法人に対し、必要に応じて禁止行為の停止勧告や措置命令を行う。
 「霊感等による知見を用いた告知」などの行為による勧誘を禁止した。違反行為による寄付の意思表示は取り消し可能にし、寄付をした人の配偶者や子も本人に代わって取り消せる仕組みとした。
 与野党は一刻も早い救済では一致するものの、合意は見通せない。献金要求に悪用されるマインドコントロールの定義の是非を巡り対立していることが一因である。
 立憲民主党と日本維新の会は10月、独自法案を国会に共同提出。マインドコントロール下で高額献金させる行為を禁じなければ救済につながらない、と主張する。
 与党はマインドコントロールを客観的に定義して条文化するのは困難だとし、新法概要には盛り込まなかった。合意点を見いだせるかが焦点の一つとなる。
 与野党の主張は異なるとはいえ、被害者本人だけでなく家族も救済する方向性では軌を一にする。主導権争いではなく、党派を超えて知恵を絞ってもらいたい。
 一方、新法の規制は旧統一教会以外の法人も対象になる。NPOなどへの善意の寄付や募集を萎縮させることはないのか、と懸念する専門家もいる。法の成立を急ぐあまり、基本的人権の制限につながることがあってはならない。
 旧統一教会を巡る問題は30年以上も指摘されてきたにもかかわらず、政府は対応に動かなかった。その間、宗教2世の困窮などが深刻化していた。
 そもそも与党は被害者家族の損害賠償請求やマインドコントロールの扱いで課題が残るとして、新法の今国会での成立先送りを野党に提案していた。
 内閣支持率が低迷する中、岸田文雄首相が被害救済に乗り出す積極姿勢に転じたのは、政権批判を沈静化したい意図もあったのだろう。
 被害者を幅広く救済することが重要だ。政府・与党は元信者や被害対策に携わる弁護士らの意見にも耳を傾けつつ、丁寧に議論を進めるべきである。