[原発行動計画案] 国民の合意が不可欠だ
( 11/30 付 )

 経済産業省は総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で、原発活用策の方向性をまとめた行動計画案を提示した。60年を超える運転延長を可能にし中長期的な利用に踏み込む内容だ。
 東京電力福島第1原発事故の教訓として、エネルギー基本計画に明記した「依存度の低減」を後退させる政策の大転換である。にもかかわらず、結論ありきでまとめられた感が否めない。
 原子力政策を巡っては、高レベル放射性廃棄物の最終処分など問題が山積する。原発回帰に突き進む前に、安全の確保はもとより、根本的な課題の解決に道筋を付けるべきである。
 計画案は、原発を脱炭素に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)の「けん引役」と位置付けた。「原則40年、最長60年」としてきた運転期間は、再稼働に向けた審査対応のほか、裁判所による仮処分命令などに伴う停止期間を除外するとした。
 このため60年を超える運転が可能になる。原子力規制委員会は、運転開始後30年からは最大10年ごとに施設の劣化状況や安全性を確認する新制度案をまとめたが、原発に対する根強い不信感の払拭(ふっしょく)が不可欠だ。
 計画案は次世代型原発の開発・建設について「まずは廃炉が決まった原発の建て替えを対象」と明示した。「まずは」と記載し、将来の新増設に含みを残したと受け取れよう。
 福島第1原発事故後、封印されてきた原発推進に大きくかじを切った背景にはロシアのウクライナ侵攻がある。電気料金の値上がりが止まらず、岸田文雄首相は時機をうかがっていたかのように8月のGX実行会議で原発の最大限活用策を表明、検討を指示した。
 それからわずか3カ月間、原発推進が既定路線だったかのように、小委で反対意見は少なかったという。原発立地自治体などでつくる全国原子力発電所所在市町村協議会の渕上隆信会長(福井県敦賀市長)は計画案を支持するコメントを発表した。
 だが、使用済み核燃料を再処理して利用する核燃料サイクルも再処理工場の完成にめどは付かない。高レベル放射性廃棄物の最終処分問題は、計画案にも「情報発信を強化し、国主導で理解を得る活動を進める」と記しているだけである。
 次世代型原発は自治体の同意なども考慮すれば、建設や稼働までに10年単位で時間がかかるとみられ、近年は建設コストの高騰も指摘される。一方、再生可能エネルギーのコストは低下し、分散型電源でもあるため安全保障にも資すると、原子力活用の見直しを求める専門家もいる。
 経産省は年内に結論をまとめ、GX実行会議に報告する。政府は最終決定までに広く国民の声を聴き、合意形成に努めなければならない。