[反撃能力] 疑問解消へ十分論議を
( 12/3 付 )

 自民、公明両党は、政府が検討している相手国領域内でミサイル発射を阻止する反撃能力(敵基地攻撃能力)について、保有することで合意した。政府は与党協議を踏まえ、反撃能力を盛り込んだ外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書を今月中に閣議決定する。
 政府は60年以上、政策判断として反撃能力を保有しない立場を堅持してきた。保有に踏み切れば、戦後の安全保障政策の大転換となる。
 一方、他国の攻撃着手の認定や抑止力の効果など、疑問は多岐にわたる。保有の必要性も含めて、国会で議論を深めなければならない。
 自公両党はミサイル攻撃を思いとどまらせるため、能力保有により抑止力向上を図る必要があると判断した。反撃能力は「武力行使の3要件」に基づいて発動すると確認。弾道ミサイルなどによる武力攻撃が発生した場合、防ぐのにやむを得ない必要最小限度の措置として、相手領域に有効な反撃を加えると定義した。
 米国など密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」も含まれ、集団的自衛権として反撃能力を発動することも排除しない。
 反撃能力の保有を含む政府の防衛力強化の動きの背景には、相次ぐ北朝鮮のミサイル発射や中国の軍備強化など国際情勢の変化がある。
 共同通信社が先月末に行った全国電話世論調査によると、日本が反撃能力を持つことに賛成の回答は60.8%に上った。厳しさを増す安保環境を国民も一定程度感じているといえよう。
 ただ、反撃能力の発動のタイミングや対象については明示されていない。政府は「相手のミサイル発射を制約」するとして、発射に着手した時点での攻撃を想定しているとされる。
 しかし、発射方法が多様化し、その兆候を把握するのは難しい中で、着手をどう判断するのか。相手の意図を見極めるためには、正確な目標把握と高度な情報収集能力が必要だ。判断を誤れば国際法違反の先制攻撃になりかねない。
 「必要最小限」の定義も難しい。
 敵の射程圏外から攻撃可能な国産の「スタンド・オフ・ミサイル」の運用開始には時間がかかるため、政府は米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討する。射程約1600キロで目標を精密に攻撃できる能力を持つことが、必要最小限といえるのか。歯止めがなければ、他国に脅威を与える事態も予想されよう。
 日本が反撃能力の保有を宣言することで周辺諸国に疑心を抱かせ、軍拡競争に陥る懸念もある。近隣国に対しても、十分理解されるよう説明を尽くすべきだ。