[崩落事故10年] 老朽インフラに備えを
( 12/4 付 )

 2012年に中央自動車道笹子トンネル(山梨県)の天井板が崩落し、9人が死亡した事故から10年たった。
 崩落原因の一つに維持管理の点検が不十分だったことがある。事故は公共インフラの老朽化と点検管理の難しさを浮き彫りにした。
 高度成長期に建設されたインフラは大更新の時代を迎えつつある。同様の事故を二度と起こさないために、維持管理への十分な予算措置を改めて求めたい。
 事故は天井板が138メートルにわたり崩落、車3台が下敷きになるなどした。原因は天井板のつり金具を固定するボルトが経年劣化で脱落したこととされる。国の専門家委員会は翌13年、中日本高速道路の維持管理体制が不十分だったとする報告書をまとめた。
 民事訴訟では同社などに遺族への賠償が命じられたものの、刑事事件では書類送検された幹部らが全員不起訴となっている。真相究明に不満を抱く遺族には納得しがたい結果だろう。
 同じ時代に集中的に建設されたインフラは全国一斉に傷みを見せている。事故は国が管理者に対して定期的な総点検を義務付ける契機となった。
 国土交通省によると、市区町村が管理するトンネルのうち、「緊急」または「早期」に修繕するべきだと判定されたのは21年度末時点で767カ所ある。修繕を始めたトンネルもあるが、半数は手つかずの状態だ。
 10年後にはトンネル約1万カ所の約4割、橋約70万カ所の約6割が建設後50年を超える。経年劣化により対策が必要な箇所はさらに毎年増えていく。
 老朽化が著しいインフラの対応は急務だ。劣化を遅らせて更新コストを減らすために、小まめに補修することが求められよう。
 一方、財源や人手不足から維持困難に陥っている自治体もある。トンネルや橋に詳しい技術職員がいない市町村もあろう。国交省の有識者会議は、手当てできないインフラがあることを踏まえ「放置すると重大な事故を引き起こすリスクが高まる」と警告する。
 国交省はトンネルや橋の修繕を手がける自治体へ補助制度を創設。緊急性があり、高度な技術が必要な場合は、点検や修繕を国が代行する制度も設けた。国や県は老朽化対策費へ一層の重点配分を検討すべきではないか。
 全てを造り直すのは不可能という専門家の指摘もある。重要な橋を選んで優先的に修繕や更新を進め、残りの橋は危なくなれば使用制限、廃止とする方針を持つ自治体もある。住民の暮らしにできるだけ影響が及ばないよう配慮することが欠かせない。
 インフラ維持は交通網や街づくりを考えることにつながる。人口減少と高齢化が進む中、幅広い視点で検討を重ねることが必要だ。