[園児虐待] 実態の解明を速やかに
( 12/6 付 )

 静岡県裾野市の私立さくら保育園で、保育士が園児の足をつかんで宙づりにするなどしていた事件で、関わったとされる3人が暴行容疑で逮捕、送検された。
 桜井利彦園長についても、きのう、市が犯人隠避の疑いで刑事告発した。虐待行為を口外しないよう求める誓約書を全ての保育士に書かせ、保護者への公表を故意に遅らせた疑いがある。
 働く親が子どもの預け先として「頼みの綱」にする保育園で、虐待行為が常態化していた可能性がある。実態解明を急いでほしい。
 市が明らかにした保育士3人による虐待事例は15に上る。カッターナイフを見せて脅す行為や、寝かせつけた園児に「ご臨終です」と発言した例もあった。6月から8月にかけて、同僚らにたびたび目撃されていたという。
 3人は園の聴取に「しつけだった」と釈明したようだが、子の心を傷つけることに思いは至らなかったのか。周りの園児にとっても、虐待を目の当たりにするショックは大きいだろう。
 園は6~7月に内部通報を受けながら市や県警に通報していなかった疑いがある。8月に内部事情を知る人物から情報提供を受けた市も、地元紙が報道するまで3カ月以上にわたり公表してこなかった。虐待を長引かせた恐れは否定できない。事態を把握した時点で親が知らされていれば、家庭で何らかのケアができたかもしれない。
 村田悠市長は隠蔽(いんぺい)体質に対する批判の高まりを受け、自身への報告を怠った幹部3人を懲戒処分にする方針だ。なぜ公表が遅れ、保護者への説明を先送りしてきたのか。行政の責任も厳しく問われなければならない。
 富山市の認定こども園でも7~8月、泣きやまない園児を倉庫に閉じ込めるなどの不適切な保育が続いていた。市は9月に情報をつかみ、県警に相談。県警は暴行の疑いなどでの書類送検を視野に捜査している。
 このケースでも、今月初めに報じられるまで、園や市は保護者や市民に公表していなかった。同様の不祥事が身近で起きないとは限らない。関係者は他山の石としてもらいたい。
 保育現場では、職員の確認不足や思い込みによるミスで子どもの命が奪われる事件が相次ぐ。昨年7月は福岡県中間市、今年9月は静岡県牧之原市で通園バスに置き去りにされた園児が熱中症で死亡した。先月は大阪府岸和田市で保育所に預けたつもりだった父親の車に女児が長時間取り残され、亡くなる事故があった。保育所が所在確認を怠ったことが一因とされる。
 保育士の人手不足、過重労働が従来から指摘されている。今回問題になった虐待行為は論外だが、その背景を探り、現場の改善につなげていかなければならない。