[75歳医療保険料] 負担増の議論は丁寧に
( 12/8 付 )

 政府は、全ての75歳以上が入る後期高齢者医療制度の保険料について、高所得者の負担増を検討している。来年の通常国会に関連法案を提出し、2024年度の実施を目指す。
 厚生労働省の見直し案では年金・給与の合計が約1000万円以上の人(加入者の約1%)が支払う保険料の上限を、現行の年間計66万円から80万円程度に引き上げる。約14万円の増額だ。
 併せて、比較的所得の多い中間層の保険料も一定程度増やす。支払い能力に応じた仕組みを強める狙いだが、公的年金が目減りし、物価高に直面する中での負担増である。生活実態を踏まえた丁寧な議論を求めたい。
 窓口負担を除く75歳以上の医療費は22年度予算ベースで約17兆円。半分は国や自治体の公費を充て、4割は現役世代が払う保険料から「支援金」を回し、残り1割を高齢者自身の保険料で賄っている。
 団塊世代が75歳以上になり始める22年度以降、一層の医療費膨張は確実とみられる。会社員らの1人当たり支援金負担が過重にならないための措置はやむを得まい。
 急激な増額は反発を招く可能性もある。既に今年10月には、原則1割だった75歳以上の医療費窓口負担が、単身で年収200万円以上など一定収入がある人は2割になった。慢性疾患を複数抱えるような高齢者の家計には痛みが大きいはずだ。十分な目配りを望む。
 医療だけでなく、介護を巡っても負担増の動きがある。
 政府は65歳以上の介護保険料に関し、高所得者を引き上げ、増収分で低所得者を引き下げる考えだ。介護サービス利用時に現在1割負担の人の一部を2割負担にする案も含め、来年早期の決着を目指す。年内取りまとめの予定だったが影響を慎重に検討するため先送りした。とはいえ、負担と給付の見直しが加速している印象は否めない。
 6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」でも、持続可能な社会保障制度の構築に向け、これまでの「給付は高齢者、負担は現役世代」を転換する方針が強調された。
 21年の出生数は81万1604人(概数)と6年連続で過去最少を更新。新型コロナ下で22年は80万人を割り込む懸念もある。政府は少子化対策として妊産婦に支給する「出産育児一時金」を23年度から大幅に増やす方針で、その財源の一部を後期高齢者医療制度から拠出し支えることを検討している。
 高齢者に痛みを分かち合ってもらう「全世代型」の社会保障改革を進めるには、それがなぜ必要か、現役世代の負担軽減にどの程度結びつくのか、説明が必要だ。そうでなければ世代間対立を招きかねない。政府は心するべきである。