[中国コロナ緩和] 激変の影響注視したい
( 12/10 付 )

 中国政府は、新型コロナウイルス対策として続けてきた「ゼロコロナ」政策を大幅に緩和した。これまで集中隔離施設に収容してきた無症状や軽症の感染者の自宅隔離を認め、PCR検査も縮小する内容だ。
 長く続く政策で国民は我慢の限界に達し、経済も冷え込んでいる。11月下旬には各地で抗議デモが広がり、政府が軌道修正に追い込まれた形だ。
 世界経済の回復にもつながることが期待される半面、あまりに急激な政策の転換で混乱も起きている。今後、内外にどのような影響が生じるのか、注視する必要がある。
 中国は感染拡大当初からスマートフォンなどを通じて国民の行動履歴を把握。感染者が増えると大規模なロックダウン(都市封鎖)を行うなど、厳しい行動制限を伴う対応をとってきた。
 初めのうちは感染を封じ込めており、習近平指導部は成功を世界に誇示。11月初旬の共産党の会議でも、ゼロコロナの継続を確認していた。
 だが、強制的な措置への不満が高まり、抗議行動は首都北京をはじめ全国に拡大した。一部参加者が習氏の「独裁」を批判する異例の展開となり、指導部は危機感を強めたとみられる。
 厳格な封鎖や行動制限は経済の足かせにもなっていた。若者の失業率は約18%と高い。習指導部は今年の経済成長率の政府目標「5.5%前後」の達成をすでに断念している。日本など外資系企業も制限緩和を求めていた。
 北京市政府は、国内各地から北京への移動制限を緩め、PCR検査の陰性証明なしに入れるようになった。商業施設に入る際の証明も不要になり、店内飲食を再開する店も増えている。
 世界のサプライチェーン(供給網)で大きな役割を果たす中国の政策転換に、日本の経済界からは歓迎の声が上がる。
 一方で、唐突な方針変更に戸惑う市民も多いようだ。
 中国政府の専門家は、感染力の強さを強調してきた変異株への警戒を一転し、毒性が弱まっていると主張する。
 ただ、7日に新たに確認された市中感染は約2万人で、中国としては高い水準が続く。感染拡大への不安が拭えない中で、風邪薬などを買いだめする動きもある。PCR検査を受けても結果が通知されないケースも増えているという。不安の解消は急務だ。
 人口の多さに対して脆弱(ぜいじゃく)な医療体制や、ワクチン接種率の低さという課題も先送りされたままだ。英国の医療調査会社は、ゼロコロナを解除すれば、130万~210万人が死亡するリスクがあるとの推計を示した。
 中国政府は感染状況を把握した上で国民の声に耳を傾けるべきだ。柔軟な対応で安全と経済との両立を探ってもらいたい。