[被爆2世訴訟] 実態に即した援護策を
( 12/15 付 )

 原爆被爆者を親に持つ「被爆2世」への援護を怠ってきたのは憲法違反だとして、長崎県などの2世と遺族の計28人が2世1人当たり10万円の損害賠償を国に求めた訴訟の判決で、長崎地裁は請求を棄却した。
 世代を超えた核兵器被害に関する初の司法判断である。焦点となった原爆放射線の遺伝的な影響は「可能性を否定できない」とする一方、援護の対象外とする国の違法性を認めなかった。
 だが、被爆者団体の調査で多くの2世が健康不安を抱えていることが明らかになっている。国は実態に即した援護策を講じるべきだ。
 原告は2017年に提訴。人体への遺伝的影響が推測される研究結果を基に、被爆者認定要件を定めた1995年施行の被爆者援護法の立法趣旨を踏まえて2世も援護の対象にすべきだと訴えた。
 一方、国側は放射線被ばくの子どもへの影響は確認されておらず、立法義務はないと反論し、「健康への影響が生じることを原告側が科学的に立証すべきだ」とも強調していた。
 判決は、2世は身体に直接被ばくしたとは認められず、原爆放射線による遺伝的影響は「可能性を否定できないというにとどまる」と判断した。国側の訴えを認めた格好だ。
 原爆投下後に降った「黒い雨」を巡る訴訟で広島高裁は昨年7月、「健康被害が否定できない」レベルでも「被爆者」と認める判決を下した。こうした判断から後退したのは否めない。
 さらに、国が求める健康影響の科学的立証には膨大なデータや時間が必要で、現実的ではないと指摘する放射線生物・物理学の専門家もいる。
 日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が昨年公表した被爆2世への全国調査報告書では約6割が「2世としての不安や悩みがある」と回答した。具体的には「ちょっとした体の異変が被爆と関係しているのではないかと不安」などのほか、子どもへの影響を懸念する声もあった。
 原告は被爆者と2世で援護に大きな差があるのは不合理な差別だとして「法の下の平等」を定めた憲法14条に違反すると主張した。だが、判決は援護の対象範囲は立法府の裁量に委ねられているとして違憲とは認めなかった。
 2世をどう援護していくのか。国会にその解決を促したともいえるだろう。援護法制定時には2世への支援を求める付帯決議が国会で採択されたが、放置されたままだ。
 被爆2世は全国に30万~50万人いるとされる。中にはがんに苦しむ人もいるが、国の支援は年1度の健康診断にとどまる。国会は被害の実態と向き合い、原告らが訴える「医療費の助成」「健康手帳の交付」などの実現に道筋を付けなければならない。